愛玩動物



Ver.24


――まるで猫みたいだ。

大人の骨格なのに、しなやかに動くその様はまるで孤高のワイルドキャッツ。背中や腕に残るひきつれた銃創や切り傷の痕が尚更その野性味を強くしている。俺の自慢の、猫。
歩くたびに、高く立てた白い細い尻尾が左右に揺らめいて、体に反して華奢な首筋を守る白い毛皮の首輪の鈴が小さく鳴る。黒革のアイマスクで視界を閉ざされた隼人が、隣を歩きながら俺の動きを探っている気配がかわいらしくて、しゃがんで肩の真ん中、よつんばいで歩くから窪むそこにキスをすると、「ん…」とかわいい唇を噛んだ。喉を撫でながら空いているソファを探すと、隼人は気持ちよさそうに両腕を伸ばして仰け反った。
「…ふぅ…ぅ」
アイマスクを外すまでは言葉を話さないのが三つの約束の一つ。足だけで歩かないことも約束の一つ。
「あ」
薄い青の照明で満たされた室内に知り合いを見つけた。妙に穏やかな二人組。隼人はビクと体をふるわせて喉元の俺の手を挟むようにかぶりを振った。隙間から抜いた手で頭を撫でて歩くように促す。今までピンと掲げていた尻尾は床に伸びて左右に揺れていた。ここでの知り合いなんて数えるほどしかいないから、隼人はここでの過去の記憶の中でしょげ返っている。そんな姿を見せても俺が嬉しがるだけなのに。――それに嫌いじゃないだろ?
向こうも俺達を見つけて片手を上げる。
「久しぶり。来いよ」
「…来てたんですか」
金髪のマフィアのボスの膝の上にも猫が一匹。猫というかなんというか。赤いリボンを首に巻いて、黒く艶やかな尻尾が体に沿って垂れている、そんなしどけない格好で寝息をたてているのは、滅多に本部に姿を見せないウチの幹部。こんなところで無防備に寝るなんてツナは知らないだろうな。
「そっちは?」
「今来たとこ。で、散歩中」
ディーノさんの隣に座り、隼人の顔だけを膝の上に乗せる。手足はもちろん床の上。ディーノさんが隼人の頭に手を伸ばすと反射的に少しだけ隼人が身を引いた。
「ビー?」
人前で本名を出すわけにいかないからコードネーム"ビアンコ"のイニシャルで呼んでいる。隼人の尻尾が上下にバタンと跳ねて、熱い吐息を吐いた。
「なぁ、ビーとやらしちゃダメ?」
マフィアのボスだなって思うところ。
「いいっすよ」
隼人はかわいそうに俺の返事を聞いて、尻尾をパタパタ上下に動かして無言の抵抗を示していた。