aptitude test 「いー加減、観念しやがれ。沢田綱吉」 恐怖や驚きも度を過ぎると感覚が麻痺してしまうのか、綱吉は妙に醒めた頭で目の前に突きつけられた銃口をしげしげと眺めていた。 鈍い光を弾く銃身、グリップを握る白い指、シャツの袖口から伸びる細い腕…ひとつひとつ辿っていくと、自分と同じ並盛中の制服の上に乗っかってるのは、今日綱吉のクラスにやってきたばかりの季節外れの転校生の顔。 イタリアからやってきたというちょっと変わった名前の転校生は、東洋人のような黒眼を楽しそうに細めて、唇を左右対称に綺麗に引き上げた。 「オレから逃げようなんて、考えねーほうがいーぞ」 地獄の果てまでも、追いかけてやるからな…。 優雅な笑みと物騒な台詞に似合わない幼げな仕草で小さく首を傾げると、クラスの女の子達が「カワイイ!」と声を上げていた無秩序に跳ねた黒髪がふわふわと揺れた。 「リ、リボーン、くん…?」 「リボーン、で良いって言ったろ?カテキョだからって、敬語使う必要ねーよ」 困惑しっぱなしの綱吉が恐る恐る発した声も、歌うような流暢過ぎる日本語で弾き返されてしまう。いい加減覚えろ、と言いたげに顎下から突き上げる銃口の冷たい感触に、綱吉は声にならない叫び声を上げた。 (お、落ち着けっ。落ち着けオレっ!) 混乱しきった頭ではマトモな思考なんて不可能だったが、目前に迫りくる恐怖から一時的にしろ逃避する為に、綱吉はこの状況に陥るに至るまでの今朝からの経緯を、飽和状態の頭から精一杯引きずり出していた。 2学期が始まる直前に親の転勤だとかで急に転校した奴の席がたまたまツナの隣で、自動的にこの転校生はツナの隣の席に収まった。 「今日の日直は…丁度沢田だな。校内を案内してやるように」 担任にそう言われて恐る恐る隣を覗き込むと、こちらを向いた転校生はにっこりと綱吉に微笑みかけた。 「よろしく、沢田綱吉…オレの事はリボーンと呼べ」 よく通る声と魅惑的な笑顔にどぎまぎしつつ、頼まれたら嫌と言えない気弱な性格も手伝って、綱吉はふにゃりと笑みを浮かべると「よろしく…リ、リボーン」と小声で呟いた。 転校初日だと言うのに余裕綽々で足を組んで授業を受けるリボーンの隣で、終始落ち着かない様子で「教科書、見える?」とか「消しゴム、貸そうか?」と話しかける綱吉の方が物慣れない転校生のようだったから、リボーンの命令口調も誰も教えなかった筈の綱吉のフルネームを知っていた事も、綱吉はこれっぽっちも不審に思う間もなかったのだ。 「ツナーっ!誕生日おめでとうっ」 休み時間になって、空いていた綱吉の前の席に座り込んだ山本は、これで同い年だなーなんて嬉しそうに言いながら、綱吉の頭をぽんぽんと叩いた。 「有難う、山本…あ、リボーンく…じゃなかった。リ、リボーン…こっち、山本」 「おっ、転校生。よろしくな」 休み時間になっても席を立つ事なく、興味なさげに教室内を見渡していたリボーンに声をかけると、人懐っこい笑顔を浮かべた山本の顔と握手の形に差し出された手を時間をかけて眺めて、リボーンはにやりと口元を歪めた。 「こいつは鍛え甲斐がありそうだな…よろしく、山本武」 それだけ言うと、いきなり机にうつ伏して居眠りを始めたリボーンに2人とも笑顔を浮かべたまましばし固まったが、お互い内心「よく判んないけど…ま、いっか」とあっさり片付けると、顔を見合わせてあははーと笑い飛ばした。 そんな2人だから、勿論、山本のフルネーム(以下同文/笑) 放課後、居残って日誌をつける綱吉の隣で、何をする訳でもなく黙って座っているだけのリボーンに気づくと、綱吉は書きかけの日誌の手を止めて、リボーンに向き直った。 「ごめん。もしかして、何か聞きたい事とか案内して欲しいとことかあったのかな?」 こっちは後でも良いからさ、と日誌を閉じて椅子から立ち上がりかけた綱吉を制するように、リボーンは荒い音を立てて机の上に長い両足を投げ出した。 「…ったく。話には聞いてたが、予想以上のお人好しだな」 「リ、リボーン…?」 「能力的には平均以下だが、まあその方がシゴキ甲斐もあるしな…山本武とまとめて面倒見てやるか」 「な、何言ってんのっ!?」 白く長い指を唇にあてて誰に聞かせるともなく呟く言葉の内容に、綱吉は思わず身を乗り出して声を上げたが、心臓の上にぴたりと当てられた硬い感触と、こちらを見上げるリボーンの視線に動きを止めて息を呑んだ。 「沢田綱吉…オレがお前を立派なマフィアのボスにしてやる」 「はああっ!?……ちょ、ちょっと待ってよ。ソレ、何のつも…っ」 心臓の上から首筋を辿って顔の前に突き出されたのは、テレビや映画でしか見た事のない、平凡を絵に描いたような人生を歩んできた(そしてこれからも歩むと信じて疑いようもなかった)自分には一生縁のない筈の代物で…。 「お前はイタリア随一の勢力を誇るボンゴレファミリーの初代ボスの末裔だ…お前はボンゴレ10代目となるんだ」 「えええっ!?いや、あの、そんな事、急に言われても…」 え?コレ、何?エイプリルフールじゃないよな?…てか、今日はオレの誕生日だしっ! 早くも許容範囲を超えてぐるぐると回り始めた頭とふらつく足元で後退ると、机に阻まれてしまい、椅子と机の間にそのまましゃがみこんでしまった。 「気も小せえな…まあ、下手に歯向かわれると面倒だしな」 机から下ろした足を優雅な仕草で組み直すと、床に座り込んだまま恐る恐る見上げてくる綱吉の視線を受け止めて、リボーンは嫣然と微笑んだ。 「取り敢えず、適性検査は合格だ…これからは、オレがお前の家庭教師だ。びしばし鍛えてやるからな」 覚悟、しとけよ。 最後通告を突きつけるようなその声に、綱吉は目を見開いたままぶんぶんと首を振るが、静かに眉間に当てられた銃口にぴたりと動きを止めて、白皙を彩る赤い唇が呪詛の言葉を吐き出すのを聞いた。 「いー加減、観念しやがれ。沢田綱吉」 ツナとリボ様、はぴば! タイトルは、運転免許切替に行った時に見かけた案内板からいただきました(苦笑)/わんこ |