aqua-vitae (命の水) 久しぶりに嗅ぐ匂いの中、ラル・ミルチは目を覚ました。 なんの匂いか探しながら研究所の匂い、と思い当たる。完璧に壊したはずなのに。 目を開けるとコロネロがいた。碧いまなこが丸く見開かれて、やがてニヤリと笑った。 そうか、これが夢というものか。どこかで見たことのある光景。白い部屋に光が溢れて眩しい。コロネロの金色の髪は一際輝いて見えた。 「キレイだな、コロネロのばか」 「だからばかじゃねーって」 ゴンと頭突きを食らうと反射的に涙が出る。痛みに現実を知る。 「ゴメン。でも、また誰かが言ってたぞ、コロネロのばかって」 「そういうこと言うのは家光とシャマルぐれーだろ。死にかけのお前を拾ってきたのがシャマルだぞ」 「あの男か。じゃあ、一番最初にオレを助けてくれたのもそいつか」 「あぁ。よくやったな、でも怪我しすぎだコラ」 コロネロはぞんざいな口調ながらも、ラル・ミルチの健闘を褒めた。 「右手の指の骨折が一番重傷だけど、すぐ治るぜコラ。さすが俺の舎弟だな」 「シャテー?」 「弟みたいなもんだ。俺は軍に戻ることになったからもう行くぜ」 「わかった。また逢えるんだろ?」 「当たり前だ。リボーンに苛められたらすぐ連絡しろよ、飛んでくるからな」 「人聞きの悪いこと言うんじゃねー。さっさと行きやがれこの腐れ軍人」 ベッドに飛び上がってきたリボーンが水を差す。 「んだと?ここでやってくか?」 「フッ。お前に俺がやれるものか。俺も次の仕事が出来たから行くぜ」 「興味はねーが聞いてやる、どこ行くんだ?コラ」 「教える義理もねーが泣かれるのも困るから教えてやるぜ、キャッバローネんとこの息子のカテキョだ」 「はん!お前にぴったりの生ぬりー仕事だな。お似合いだぜコラ!」 「リボーンも行くのか?」 コロネロと突きつけ合っていた銃を下ろし、包帯だらけのラル・ミルチの横、コロネロの反対側ににリボーンはそっと膝をついた。 「あぁ。お前もよくがんばったな。もうお前みたいなのは作られねーぜ。お前も立派なアルコ…」 「どうした?」 二人がラル・ミルチを見て黙ったので、ラル・ミルチは問いかける。 「気付いてねーのか?」 コロネロはがラル・ミルチの顔に手を伸ばした。触れられて初めて濡れていることに気付いた。 「泣いてるぜ、コラ」 「泣く?なんで?」 「それはこっちが聞きてーぜ」 「俺様と別れるのが辛いからだろ、やっぱかわいいとこあるなーコラ!」 涙で濡れる頬にぐりぐりとコロネロが小さな拳を押しつける。 「いてーぞ、コロネロ」 「生きている証拠だぜ、コラ!」 「やれやれ体育系にはホントついていけねーな」 「お前も同類だ!リボーン!」 二人の頭突きに巻き込まれてラル・ミルチも二人と頭をぶつけあう。容赦のない痛みに、目の前を星が飛んだ気がした。 「ばかたちには付き合ってらんねーぜ、先行くな」 「しょうがねーなー、寂しいならそう言えリボーン。俺も途中まで付き合ってやるぜコラ」 立ち上がるリボーンにコロネロも続いて立ち上がる。 「うぜ」 「こっちもうぜーぜ」 もう一度ガツン、と頭突き。 「じゃな、ラル・ミルチ」 「怪我治ったら一度来いよ」 二人は振り返ってラル・ミルチに笑いかけ、同時に飛び上がってラル・ミルチの視界から消えた。おしゃぶりの光も薄くなってそっと消えた。 ラル・ミルチは静かになった中で、胸の奥がぽっかりと空いて痛くなった。ずっと一緒にいた仲間が消えたさみしさ。 「これも生きている証拠、なんだな、コロネロ」 おしゃぶりを小さな両手で抱きながら、そっと呟いた。 『よくわかったな、コラ!』 コロネロの笑い声が聞こえた気がした。 ラル・ミルチのコロネロさんへの想いがどんなかを想像した結果。/だい。 |