同室ですから。



「いー加減にしろよ、テメエっ」
 角の向こうから聞こえてくる獄寺君の声に「ああ、またやってんなあ」と思いつつ立ち止まって待っていると、廊下を曲がってひょいと姿を現した山本が先に声をかけてきた。
「ツナ、おはよ」
「おはようございます、10代目!」
 山本に続いて飛び出してきた獄寺君は朝からいきなりハイテンションで、後ろ結びの首筋が見えるぐらい深々と頭を下げてきた。うーん、10年後もこんな調子だったらどうしよう…有り得そうでちょっと怖いなあ、なんて10年後の姿を思い浮かべてしまうのは、昨日の夜リボーンから渡された免許証の所為かもしれない。
「おはよう。獄寺君、どうしたの?」
 そういや、山本もいつも朝から機嫌良さそうだよなあ。朝練で早起きに慣れてるのかなあ…半分寝ぼけた頭で二人の顔を交互に眺めながら問いかけると、途端に顔をしかめて山本の横顔をぎろりと睨み上げた獄寺君が、「聞いて下さいよ、10代目っ」とオレに訴えかけてきた。
「山本の奴、毎晩オレのベッドに潜り込んでくるんですよっ!」
「いやー、トイレに起きてベッドに戻る時、寝ぼけてついいつものクセで上のベッドに登っちゃうんだよなあ」
「寝ぼけたついでに落ちて頭かち割っちまえ!」
 二人の言い争いはいつもの事だし、荒気なく捲くし立てる獄寺君を飄々とやり過ごす山本の態度も見慣れたものだけど…あれ?何か、どこかひっかかるのは気の所為?オレがまだ寝ぼけてるからかなあ。
「狭いのにデカい図体で抱きついてきやがって…暑苦しいんだよ!」
「そうか?オレは丁度良いけどなあ」
「抱き枕じゃねえんだぞ!無駄に腕やら足やら絡めるんじゃねーよっ」
 獄寺君の悪態をへらりと笑って往なす山本と、その反応に余計に逆撫でられたように言い募る獄寺君…うん、まあ、いつもの事なんだけどさ。そうなんだけどさ!
「オレ、手足が冷えると眠れないんだよ。獄寺抱っこしてたら丁度良いんだよなあ…あ、でも獄寺も体温低いだろ?くっついて寝たら一石二鳥じゃね?」
「おっまえ、それでTシャツの中に手突っ込んでくるのかよ!お前は良くてもオレは冷たくて眠れないんだよ!」
「あ、そっか。じゃあ、獄寺もオレの腹に手突っ込めは良いじゃん」
「そーゆー問題じゃねえだろっ!」
 ……うん、オレも獄寺君に賛成する…ってか、そーゆー問題じゃないんじゃないの、二人ともっ!獄寺君も、暑いのと冷たいの、どっちが不満なワケ!?
「あのさあ…部屋、別々にしたらどうかな?他の部屋、まだ空いてるみたいだし」
 恐る恐る切り出したオレの言葉に、言い合ってた二人がぴたりと動きを止めてこっちを見た…あ、いや、その…。
「そ、そんな!山本ごときに一人部屋なんて、光熱費が勿体無いですからっ!」
「オレは別にどこでも平気だぜ、ツナ」
 光熱費って、殆ど寝る為だけの部屋だから大した事ないんじゃないの?って、言おうとした口が開きかけたまま固まった…あ、あの、山本?目が笑ってないよ、山本ーっ!
「ああああ、うん…そ、そうだね。そのままで良いか」
 首をぶんぶん縦に振りながらたどたどしく返事するオレに、途端ににかっといつもの笑顔を向けてくる山本と、あからさまにほっとしたように弛緩する獄寺君の顔を見ていると、色んな事がどうでも良くなってきた…オレと同じく一人っこの山本んちに二段ベッドなんてある筈ない事も、山本と目を合わさないようにしてる獄寺君の首筋や耳元が真っ赤になってる事も。
「…取り敢えず、バイクの特訓頑張ろうか」
 10年後もこんな風に三人で笑っていられますように――免許証に貼り付いてた10年後のオレの顔を思い浮かべて、ひとまずの懸案事項をクリアすべくアジトの低い天井を見上げて呟いた。






…同室万歳(爆)/わんこ






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