夢の終わりと



 久しぶりに昔のことを夢に見た。懐かしい守護者達と戦った日々のことを。
 ボンゴレを完全に潰して、同級生より数年遅れて大学生になった綱吉は珍しく爽やかに、それも目覚ましの鳴る前に目を覚ました。
 カーテンの向こうは白々としているけれど、まだ明け切る前の薄い空気のだと思った。
 急に冷え込んできた今頃は布団から出るのも惜しいぐらいに心地よい。
 ふと、見知った気持ちが胸をざわめかせる。
 綱吉は苦笑して、目を閉じた。

 高校に行かずボンゴレのお家騒動に巻き込まれ未来だか過去だかよくわからないまま仲間達と必死に目の前のトラブル解決に当たった。そんな闘いの中で10代目を継承したのにも関わらず綱吉はボンゴレを潰した。集まりすぎた権力を細分化して(正しくは同盟ファミリーに投げて)、未来の自分がしたようにボンゴレリングも破壊した。もうこれで綺麗さっぱりボンゴレとはおさらばだとついでに並盛から東京都内へと出た。人間関係の希薄な、そしてわけありの人間すら容認してくれる優しくて大きな街。勿論、獄寺と山本は綱吉についてくると譲らなかったので、しょうがなく五年後に必ず並盛の綱吉の自宅に集合しよう、という守れるようで守れない可能性の高い約束をした。
 それから五年。二人には自分の道を探すように、と話したくせに自分が何をしたいのかまだ見つけられなかった。
 就職しようにも学歴が無ければろくな職種につけない、と高校からやり直すことにした。重篤な病気で海外で治療していたという過去で都内の高校へと受験した。童顔だったことが幸いして、幾つか年が下の同級生の中でも全く浮かなかった。高校卒業から大学へと進む。そして獄寺達との約束を週末に控えた今日、綱吉は久しぶりに昔のことを夢に見た。今となっては夢か現実かわからないぐらい曖昧な思い出。でも、現実だった証拠に、消せなかった超直感はある男の訪れを告げていた。

「おまえ、まだせかいせーふく、目指してんの?」
 誰となく呟くと、背中で笑う気配がした。片眉を上げて、芝居がかった笑い方で。見なくても綱吉には手に取るようにどんな仕草をしているかわかった。
「もちろん、輪廻の果てまで追いかけますからそのつもりで」
「もうオレはボンゴレじゃないのに。っていうか、不法侵入だ」
「大学生活は楽しいですか?」
 相変わらず会話が成り立たない、と軽く息をつく。
「制服は無いからおまえは退屈だろうな」
「僕もいい加減大人になったんですけどね」
「せかいせーふくを狙っているくせに」
 ぐるりと体を反転して、ベッドの端に腰掛けている骸を見上げる。その顔はもうあどけなさは無くなっていた。骸も五年分の月日は流れて、シャープさを増していた。
「ボンゴレ、今の生活に満足していますか?」
「日常の方が長いんだって、最近やっと気付いた」
「残念ですね」
 骸は珍しく憐れむような目をした。それを見た綱吉は大きなため息をついた。
「ブラッド・オブ・ボンゴレが反応しましたか?」
「違う」
 綱吉が話し始めるまで骸はそらすことなく綱吉を見下ろした。
「――おまえを一生赦すつもりはない。けれど、また一緒に闘えると思うとちょっと嬉しくなった自分に呆れた」
「光栄ですね。でも、僕はいい人間じゃないですよ」
「今更」
 綱吉はもう一度ため息をついて起きた。窓を開けると薄い青空が広がっていた。昨日と違う今日。その間に見た夢で決別をしてしまった日常。
「骸」
 骸は綱吉の後ろ姿に返事をする。
「預けていたものは?」
「ここに」
「週末、並盛に帰る」
 ついてこい、ともついてくるなとも言わなかった。
「ボンゴレ」
 振り返る綱吉の片手を取り掌に七つのリングを落とす。破壊した筈のボンゴレリング。壊したとみせかけて、復讐者の牢獄に囚われの骸が保管していた。
「もう二度と壊せない」
 フェイクが通じるのは一度までだ。二度やることはボンゴレと綱吉の信用を地に堕とすことになる。
 それぞれの道を進んでいる筈の守護者の姿が脳裏をよぎるが仕方がないというものだろう。
 自分の片手を離さない骸を見ると、その視線を待っていたように骸は綺麗な笑みを見せた。
「修羅の道になりますが覚悟はできていますか?」
「残念ながら」
 では、と骸はボンゴレリングを自分の手で覆い、裏返し綱吉の手の甲に唇をつけた。
「輪廻の果てまで、追いかけましょう」

 ――9代目以上の穏健派になる筈だったのにな。
 近く始まる争乱の未来を予見した綱吉のつぶやきは朝靄へと消えた。






まぁかっこつけててもツナ様はパジャマなんですが。そして何故だかむっくといるときは超ツナ様風になってしまいます。

コミックを読み返していたら、黒曜?守護者の骸にハゲ萌え。むっく、やっぱかわいいなぁ!BGMはPerfume。チョコレイト・ディスコ♪
だい。2008/9/12






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