理由



 先刻まで机の上で丸くなって眠っていた瓜は、急に跳ね起きたかと思うといきなりドアに向かって走り出した。
「おいっ、どうしたんだ?」
 オレの声を無視してドアの前にちょこんと座り、にょおん、とひと鳴きすると、それを合図にノックの音が二回と「獄寺君、今、大丈夫?」の声。
「10代目っ!全然大丈夫ですっ」
 慌てて駆け寄り瓜を蹴飛ばす勢いでドアを開くと、10代目は両手に持った大ぶりのマグカップを持ち上げてにっこりと笑った。
「良かった。両手が塞がっててドアが開けられなかったんだよね」
 邪魔してごめんね、と困ったようにはにかむ笑顔は昔と変わらず、キナ臭い話ばかりが耳につく現況を一瞬でも忘れる事が出来た。
「いえ、丁度オレもひと息ついたところでしたから…有難うございます」
 手渡されたカップを両手で包み込むと、ほんわりと浮かぶ甘い湯気を吸い込んでほっと肩の力を抜いた。
「相変わらず、難しそうな事やってるねえ…」
 机に広げられた匣や殴り書きの資料を見下ろすと、10代目は眉根を寄せてチョコラータを啜った。
「匣がいっぱいあるみたいだけど、コレ、全部嵐の匣なの?…あ、もしかして、企業秘密ってやつ?」
「いえいえっ!10代目なら大丈夫ですっ」
 肩をすくめて口を噤む10代目に慌てて首を振ると、完成までもうひと息、に近づいたSISTEMA C.A.Iについて匣と指輪を並べながら説明した。
「今のところ、出来上がっているのはここまでなんです…あともう少しですね」
「そっかあ…五種類の波動を使えるって凄いなあ」
 顔をほころばせる10代目は、足元にごろごろと懐いている瓜を抱き上げると「瓜、お前のご主人様は凄いね」と頭を撫でて、「そう言えば…」と言葉を繋いだ。
「なんで、嵐以外の波動が流れてる、って判ったの?」


 同僚の結婚式に出席してアテられて帰ってきた山本に、お互いの指輪で「指輪の交換」の真似事をさせられて、調子こいた奴が「誓いのキス」まで要求しやがったんで我に返って本気出して殴ったら、雨の炎が出てたんです。


――なんて言えるかーっ!

「ご、獄寺君?どうしたの??」
 首を傾げて覗き込んでくる10代目の真っ直ぐな目から、まさしく火を噴く程赤くなっているであろう顔を隠しようもなく、無言でカップに半分以上残っていたチョコラータを一気に飲み干すと、唯一の目撃者が10代目の腕の中でにょおん、と楽しげにひと鳴きした。






うっかり24獄にも「瓜」と呼ばせてしまいました…何て呼んでたのかなあ??
そして、24獄がSISTEMA C.A.Iで闘うトコ妄想すると、ものっそい萌えます!/わんこ






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