Roy G. Biv(アルコバレーノ)



アルコバレーノの呪いをかけられながらも、代々伝わる彼女の血のなせる技か赤ん坊の形に押し込まれることは免れていた。そして、彼女の血は未来(さき)を見る能力も秘められていた。ボンゴレファミリーと同等の歴史を持つ、ジッリョネロ・ファミリーのボスであり、オレンジのおしゃぶりを持つ、小さな体に多大な業を持つ少女。
全員の視線を瞼を伏せることで交わし、どこか遠くを視ていた。
「理由はわかりませんでしたが、一度私達は死ぬことでしょう。でも、強い光が違う時(みらい)をつくっていくようです」
「未来はいくらでも変えられるからな」
「最近、十年バズーカで未来は来ねぇのか?」
「どうせ聞いても要領は得ないから聞かねぇぞ」
「違うことに忙しいんだろ?」
リボーンはム、と口をへの字に曲げる。アルコバレーノ同士だと年齢の差があるものの、基本「選ばれし七人(イ・プレシェルティ・セッテ)」であるからして、立場はそんなに変わらない。
「おまえらを殺して、おしゃぶりを奪って最高権力の鍵とやらを手にする一派でもいるというのか?」
「多分」
「ボンゴレリングもマーレリングもおまえらもそんな簡単には倒せないだろう?」
「公表してねーが、ボンゴレリングは10代目が全部破壊した」
リボーンに視線が集中する。痛さすら感じるほどだ。表情を動かさないよう努めていたユニですら、大きな目を見開いている。
「そういう男だ。――ヴェルデ、おまえらが潜っているのもそういうことだろう?匣職人も追われているんだろう?」
沈黙は肯定を表す。
「対策は?」
「敵の詳細をまず知らねーとな」
「マモンチェーン安くで売るよ?」
商売のチャンスを見逃さないのは見上げた根性か。バイパーの広げられた両手には、おしゃぶりの機能を抑えるマモンチェーンが数本あった。
「これがあれば、ボンゴレリングも壊さなくてすんだかもしれないのにね」
「一言多いぞ、だっせーチビのくせに」
「先輩すごいッスねー」
「ほんとに効き目あんのか?コラ」
それぞれが勝手につまみ上げていった。ヴェルデにいたっては、つまみ上げた瞬間に見えなくなる念の入れようだった。それでやっと姿は見えども"そこにいる"と全員が暗黙の了解をしたほどだ。誰も対価を支払おうとしないとバイパーが憤慨する中、ソファの背もたれに腰をおろしていたコロネロがラル・ミルチを見上げる。
「おまえは?」
「不要だ」
組んだ腕の上でどす黒く濁ったおしゃぶりがあった。
「センサーにはひっかからん」
コロネロは自分のマモンチェーンをそれに巻いた。
「不要だと言った」
「意地っ張りは可愛くないぜ、コラ」
聞く耳を持たないコロネロにラル・ミルチは顔をそむける。その頬は薄闇でもわかるほどにほんのりと染まっていた。
「"次"は無いかもしれないな」
見えない声が呟いた。感情を含まない口調に事態の重さがあった。
「"次"が、"今"かもしれないな」
リボーンはいつのまにか愛用のCz75を構え、レオンはボルサリーノの鍔に乗っている。リボーンだけじゃない、コロネロとラル・ミルチも既にライフルを手にし、スカルもヘルメットを被り背後には大きな蛸が八本の腕を揺らめかせていた。
最後にラル・ミルチが入ってきたドアの向こうにはいくつもの剣呑な気配があった。
「ユニを頼む。ヴェルデ、逃げんなよ」
名前を知らない男に、別口のドアを目線で示す。
「先輩、もう逃げてんじゃないっすか?」
「おまえの蛸、盾にさせろ」
「勘弁してくださいよ〜」
「まあ僕は高見の見物とさせてもらうよ」
「チビだから見えないかもな」
薄暗い室内に、ボウ、ボウと七色八つの炎が上がった。それぞれのおしゃぶりと同じ色に体を包まれる。人影は見えないが、確かに緑の炎も薄く揺らめいた。オレンジと赤の光がカーテンの向こうに消えるのを見送って、全員の意識がドアへと集中する。
室内にいくつもの五色の炎が上がる。幻のアルコバレーノが増殖する中、銃の安全装置を外す音が微かに響いた。
「tre, due, uno, zero」
リボーンのカウントでコロネロがドアを蹴破り、ラル・ミルチが援護射撃をする。二人の銃撃音を上回る銃弾の雨に二人の姿が消える。バイパーの幻だった。
「ただの特殊部隊か。匣を使うまでもないな」
「垂れ眉またな、コラ!」
本物のコロネロとラル・ミルチが先制をしかける。ファルコ鋭く宙を斬る。対照的に、バイパーとヴェルデがユニ達と同じ通路へとマントを翻した。
「スカル、行くぞ」
パシリの後輩と残されるのは本意ではなかったが仕方ない。ここにいるわけにいかない。
狭い階段を駆け上がり陽光が溢れる外へと足を進めた。リボーンの黄色く光るおしゃぶりと同じ、晴れの中へと。






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