もうひとつの嵐 < 白い煙が消えて、目の前に建つ見慣れた懐かしい家を見た瞬間、嵐のように湧き上がったのは郷愁と悔恨と殺意だった。 今ここで自分が殺れば…しかし…。 (5分で何が…っ) 与えられたチャンスに血が沸騰する程の歓喜が走ったが、自分に残された時間を思い出し再び失意に突き落とされた。 せめてもう少しだけ、10代目に説明出来ていれば…) 「くそ…っ!」 座り込んだアルファルトに拳を叩きつけようとしたが、急に肩から伸びてきた手に阻まれた。 「なっ…」 「よお…一日ぶり?」 驚愕に目を見開く獄寺の腕を取って立ち上がらせながら、懐かしいよなーなんて鷹揚に呟いている山本の声に、獄寺は瞬時に我に返った。 「お前っ、昨日から急にいなくなったかと思ったら…」 「ん、悪いな。お前にまで黙ってて…オレ達じゃどうにも出来ないけど、もしかして小僧だったら何か判るんじゃねえかな、と思ってさ」 山本の言葉に自分達が置かれている状況を思い出して、獄寺は顔を歪ませ俯いた。その頬を撫で上げるように持ち上げて視線を合わせると、山本は肩に担いだバズーカを獄寺に見せた。 「昨日の内にこっちに来てて、こいつをランボの10年バズーカと差し替えてたんだ。これなら5分経っても戻らないからな」 ランボが持っていたボヴィーノの10年バズーカとよく似たそれは、撃たれた人間が10年後の自分と入れ替わる点は同じだが「5分間だけ」という制限がなく、逆に10年前の自分と入れ替わるよう切り替えて撃つ事で元に戻る事が出来るように作られていた。 しかし、10年前に遡る事は過去を変える恐れがある為、使用を禁じられていた筈なのだが…。 「もしかして、お前もそれを使って?」 「ああ、小僧をあっちに送って、ついでに入江の奴を何とか出来ないかと思ってさ…しっかし、まさかツナに当たるとはなあ」 ランボの隙を見てバズーカを元に戻そうとしていたところに、リボーンを探すツナがやってきたのだ。ランボの頭からバズーカが引っ張り出された時、一瞬止めに入ろうかと思ったのだが…。 「ちょっと待て!もしかして10年前のオレに撃ったのは…」 「ん、オレ」 邪気無くにっこり笑う山本に呆気に取られつつも、獄寺は山本の胸倉を掴んで声を荒げた。 「余計な事しやがって!10代目に説明してる途中だったのに…っ」 「お前の代わりに10年前のお前がツナの傍にいるだろ?だったら大丈夫なんじゃね?」 どこか緊張感に欠けている山本の声音につられてしまいそうになる己を叱責しつつ、安心させるように笑いかける山本を睨みつけた。 「大丈夫な訳ねえだろっ。10年前のオレなんて何も判っちゃいねーんだから」 「んー、何とかなるって。多分今頃アジトでオレの手紙読んだ10年前のオレが、誰かに迎えに行くように頼んでる筈だぜ」 14歳の山本が昨日からアジトにいて、今頃、この山本が残した手紙に従って動いている、という事か…状況は理解出来たが。 「アホ山本かよ…頼りねえなあ」 「だから、隼人が必要なんだろ?」 さらりと頼りにしているのだと告げられ、更に「ツナも三人一緒の方が嬉しいだろ?」と重ねられては、獄寺も納得ぜざるを得なかった。 「しょうがねえな…お前はともかく10代目の為だ」 深々とため息をつき口元を歪めて笑う獄寺に、山本は顔を近づけて「それに…」と小声で続けた。 「いくら相手がオレとは言えども、これ以上ライバル増やしたくないしな」 「は?どーゆー意味だ?」 「14歳のオレがお前に惚れちゃ困る、ってハナシ」 14歳の頃よりもいくらか短くなった獄寺の髪を梳きながら囁くと、顔を赤くした獄寺が山本の手を振り払って叫んだ。 「ば、馬鹿がっ!んな訳ねえだろっ」 14歳の頃、獄寺にとって山本は仲間でありツナの右腕を巡るライバルであり…まさか、今みたいな関係になるとは夢にも思っていなかったのだ。 「どうかなあ…」 「どうかな、って…お前、ソレどういう意味だよっ!」 「それに…オレもこっちで一人じゃ寂しいだろ?」 落とされた声音に、腰に回った腕が引き寄せるのに任せて再び顔を近づけると、至近距離で見上げた山本の顔に先刻までのふざけた様子はなかった。 「隼人…お前も考えてる事は一緒だろ?」 この状況を打破する為に、「10年後」の未来を変える為に…もしかしたら、自分達の知っている「10年後」には戻れないかもしれないけれど。 「当然だ…」 山本のその目に宿る光を認めて胸を合わせるように寄り添うと、内ポケットに忍ばせた写真がかさりと小さな音を立てた。 実は24山本が24獄寺より先に10年前に飛ばされていました、っつー妄想…今となっては笑うしかないですねえ(泣笑)/わんこ |