引継ぎ事項



現在のボスから次代のボスへ2人きりでの継承の儀式、という厳粛な場のはずだったのだが。
「あはははは!やっぱり次のボスお前か、ごめんねー」
「馬鹿笑いしてる場合か、この道楽者!!」
「褒め言葉だな、Grazie.」
「引退なんぞとまどろっこしいこといわず、この場でぶっ殺してやろうか…」
「もう日本まで船便予約しちゃったから!キャンセル料もったいないから殺さないでね」
この場で 少なくとも殴り倒すくらいは許されるだろう、と強面の割りにまじめな男はこぶしを固く握り締めた。

「もう、お前に本気で殴られたら、ホントに死ぬって…」
いたたーと船室の狭いベッドの上で頭をかかえる小柄な青年を見下ろして、 まったくこいつを崇拝する連中には見せられん姿だとため息をつく。
「手加減してやっただろう、まったく最後まで世話の焼ける」
「ああ、うん 最後までお世話になります…てか、お前ほんとにいいの?」
嫌がってたのにさあ、と今更なことを言い出す頭をわし掴んでぐらぐらとゆさぶる。
いたい目が回ると情けない悲鳴を聞きながら笑う。
「まあ仕方が無い、おれはお前の尻拭いする星回りなんだろうよ」
台詞とは裏腹に晴れやかに笑う男を 眉をしかめて見つめた後、今度は青年がため息をつく。
「お前には幸せになってほしいんだけどなあ…」
マフィアのボスなんて因果な商売、継がせるつもりじゃなかったんだよと普段は陽気な青年の珍しい弱音を聞いて男は更に笑った。
自分の身内を守っているだけのはずが、少々器が大きすぎてマフィアのボスになってしまった、という青年は間抜けだが、その間抜けの跡を継ごうという自分も馬鹿の仲間入りだろう。 しかし青年が一人で歩くこともままならないほどの傷を負った今、ここで跡を継ぐ人間がいなければ彼の守ってきた大事な家族は生き残っていけるかどうか分からない。 彼に次ぐ力があるとみなされた自分が次期ボスになるのは自明のことだというのに、目の前の青年は男の個人的なしあわせなどを心配している。
「やるべきことをしないでいるというのは性に合わん。よって 今現在幸せかと問われれば答えは幸せだな」
そういうと、青年が、ほんとに真面目なんだからとつぶやいて、もう一度長いため息をついた。
「今お前が死ぬとファミリーが動揺するからな、おとなしく日本とかいう田舎に引っ込んでろよ」
男がそう言うと、苦笑いした青年が振り切るように天を仰ぐ。
「…みんなの幸せを祈ってる。」
「伝えるさ、必ずな」
ありがとう、と笑う青年を置いて船室を出る。
彼から引き継いでいくのは ボスの重責とささやかな願い。
『幸せを、祈っている。』






だいさんの「それでも世界は美しい」(のプロット版)のツナとザンザスを見ていたら、突然落ちてきたコネタ。
能天気初代と真面目苦労性ちょっと保父さん体質2代目。
従兄弟同士で初代が2歳年上の設定。
この設定がどこから来たのか、なんで2人がこんな性格になったのか自分でも謎です。/主任

主任からのいただきもの。いっぱい有難うございました!また書いてーっ! 20080202






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