夕闇



 ランボの10年バズーカの誤射で強制的に過去の自分と入れ替わった俺は、何故か5分で元に戻ることなく懐かしい風景の中に身を置いている。自分に残された時間はわからないが、今なら自分の手で全てを変えることが出来るかもしれない。
 ターゲットはすぐそこに居る。

「ご…獄寺?」

 ターゲットを発見してから一言も喋らなくなった山本が、何故かためらうように声をかけてきた。背後を振り返ると、真っ直ぐな目線とかちあう。見慣れている姿より幼いが、その瞳は全然変わっていない。
「何だ?」
 最初に顔を合わせたときは、俺の事がどうしても自分の良く知る獄寺隼人という人間と同じだということがわからなかったようだ。それでも、何度か説明をしているうちに、ようやく理解したらしい。
 ――目の前の人物は、10年後の世界を生きている人間なのだと。

「そのターゲットを…消した、として。アンタはどうなるんだ?」
 何度も何度も考えていた事なのだが、俺はまだその質問の答えを見つけられていなかった。
「…山本」
 俺は、その真っ直ぐな山本の目線から、横を向くことで逃げた。
「未来を変えることができたら、そしてそこにアンタが戻って…でも、そこにまた俺は居るのかな?」
 俺は山本に10年後の事は何一つ話していない。
 10年前に来て5分で戻らないとわかった時点で、全てを自分一人で片付けようと思っていた。しかし、いきなり10年前に飛ばされて懐かしい10代目の家の前に立っていたとき、最初に山本に声をかけられてしまったのだ。そこまでは仕方ないと割り切り、山本と二人だけでターゲットを捜索していた。その途中で、今でも山本が自分の傍にいることをつい話してしまったのだ。
 山本は目を逸らさない――視線を感じる頬の辺りが、チクリと痛んだ。

「…確かに、ここで俺がターゲットを消したとして…それは、俺にとっては過去を変えることだ。自分の時間に戻れたとして、それが飛ばされる前にいた10年後と同じとは限らない」
 俺は、スーツの内ポケットから煙草を取り出した。指を伸ばしてホルスターにある銃を触って確かめる。
「お前の10年後の世界の俺は、おそらく今、ここで会っている俺じゃない」
 煙草に火をつけて、ゆっくりと吸い込むと空に向けて吐き出した。
「そんな!」
「だがな」
 何故か必死の形相で俺に詰め寄ろうとしている山本を、目線で止める。
「お前にとってはあくまでも‘今’なんだ。10年後はお前にとっては‘未来’なんだ」
 再び吐き出した煙が、夕闇の空に消えていく。
「これから起こることなら、お前はいくらでも変えられるだろ?」
 ――何を言っている…それは、俺の願望だ。
 俺は、苦い気持ちで煙草を揉み消した。

 俺の言葉を聞いてしばらく固い表情をしていた山本は、やがてにっこり頷いた。
「わかった、獄寺」
 山本は、俺の右手を掴んだ。驚いて山本を見ると、今は俺より下にある強い瞳とかち合う。
「俺が、この手を離さなければいいのな」
 指を絡めるように握り直されて、胸が痛くなった。
「絶対に」
 ――そうだな…武。

 肯定の言葉は吐くことの出来ない俺は、ただ山本の笑顔をだまって見返していた。
 眉間に力を込めていないと、本音がこぼれ落ちてしまいそうだったから。






十年前に飛ばされた24獄と14山の妄想話。14山ってば、素でプロポーズしそうかなと。 /つねみ






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