厚焼玉子



「わあ、すごい」
「余りモンだけど食べてくれよ」
「美味しそうだよ、獄寺君」
「…っすね」
 綱吉と山本と獄寺の三人は、晴れていればいつも屋上で昼食を食べている。屋上は基本的に立ち入り禁止の筈だが、以前からその扉の鍵はこわれており、それを知っている一部の生徒が割と頻繁に出入りしていた。それが何時からかほぼ自分達だけになっていることに綱吉は気付いていたが、経験上あまり気にしないことにしていた。取り敢えず混んでいないし、気持ちいいのだからどうでもいいと言うのが本音だ。
 獄寺はコンビニか購買のパン、綱吉と山本は弁当というのが定番だが、時折山本が弁当とは別に重箱を持ってくる。前日、竹寿司で余ったネタを簡単に調理して持ってくるのだ。さすがに生物は危ないので全て火を通しているが、ネタが新鮮だけに簡単に調理しただけでかなり美味しいのだ。
「獄寺も食べろよ」
「っせーな」
 獄寺はずっとしかめっ面だが、綱吉が箸をつければ安心したように自分も手を伸ばす。今日も塩焼きにした烏賊を美味しそうに頬張る綱吉を見て、黙って箸を取った。獄寺が決まって最初に箸をつけるのは、厚焼玉子。山本はそれを見て、思わず笑みを浮かべた。
 好きなんだろうなー。
 余計なことを聞くと、意地でも箸をつけなくなりそうで口に出したことはない。しかし、獄寺が竹寿司の厚焼玉子が好きなのは、一目瞭然だった。
 獄寺は、しかめっ面のまま口に運ぶ。そして、数回咀嚼すると口の動きを止めた。二、三回瞬きをすると、考え込むように空を見つめる。
「獄寺君、これマグロの炊き込みご飯だって…獄寺君?」
 動かない獄寺を綱吉が顔を覗きこんで名前を呼ぶと、我にかえって慌てて返事をした。
「すみません!10代目のお言葉を聞き逃すなんて…」
「いいから、これも食べてみてよ」
「はい!」
 綱吉の差し出した炊き込みご飯を頬張りながら、獄寺は綱吉に向かって笑顔を見せる。
「美味しいっす。さすが、10代目…」
「美味しいって、山本」
「おー、サンキューな、ごくでら」
「オレはお前なんぞには言ってない!」
「でも、持ってきてくれたのは山本だよ」
「うっ…しかし…」
「まあまあ、気に入ったら全部食べてくれな」
 そうして3人は、いつもより豪華な昼食を平らげていった。

 文句を言いつつ次々と箸をつける獄寺を見ながら、山本は密かに苦笑していた。
 やっは気付いたかー。親父との味の差に気付くなんて、さすがだよなー。
 確かにほとんど山本の父が作ったものばかりだが、今日の厚焼玉子は山本が作ったものだったのだ。獄寺が好物だと気付いてからかなり練習して、今では父からも御墨付きを貰えるまでになっていたのだか。
 獄寺は食べることに執着しないのに、舌は恐ろしく肥えている。育ちがそうさせるのだろうが、そんなことではますます食事をしなくなるのではと、山本は心配していた。そんな獄寺が竹寿司の味はとても気に入っているらしく、なんだかんだと文句を言いながらも口に運んでいる。
「次は何を作ろうかなぁ」
 山本はすっかり空になった重箱を片付けながら、楽しそうに呟いた。






他意なく餌付けする山本と、意識しないまま餌付けされる獄寺さん。
そうして、何時の間にか山本家の味を覚えてしまえばいい(爆。/つねみ






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