あなたにフレンチ・トースト♪



 部屋が暗くなってやっとトトロが終わったことを知った。中途半端に食べ散らかしたスナックも呑みかけのお酒もそのままに、砂の嵐を見るふりをして獄寺を撫で続ける。トトロを観ている間に、牛乳砂糖玉子に浸したパンを上下ひっくり返す筈だったのにそのままだったことを思い出した。下にあるパンだけがふにゃふにゃになってしまう。獄寺が朝だけはとびきり甘い物を好きだということをいつ知ったんだろう。朝ご飯を抜いていたわけではなく、朝からちゃんとした食事をしたことがなかったからと聞いて、試しに作ったフレンチ・トーストには反応した。でも感想は「もっと甘い方がいい」だったから、信じられないぐらい砂糖を入れた。他にメープルや蜂蜜を試したけど、牛乳砂糖玉子が一番お気に召した。このままそっと獄寺を外してフレンチ・トーストの世話を焼いてもいいけど、それはあまりにも勿体なさ過ぎる。フレンチ・トーストはいつでも作れるけれども、膝の上で寝る獄寺は滅多にないのだ。ふにゃりとオレを枕代わりにする獄寺はたっぷりふやかしたパンみたいだ。固いフランス・パンも一晩つければぐちゃぐちゃになるぐらい柔らかくなる。このまま一晩撫で続けたらオレでいっぱいになってぐにゃぐにゃになればいいのに。
 なんてアホな希望的観測を心の奥底にぎゅうぎゅう詰め込んだら、獄寺が小さくくしゃみをして起きた。
「……寝てた?」
「おう。今終わったとこ。ベッド行く?」
「ん」
 シャワー浴びて髪を濡らしたまんま寝たからちょっと声が掠れていた。それがまたキてオレはもー大変。獄寺はベッドに寝転がり、オレはいつものようにソファに寝るつもりで、その前に歯磨きをして、その前に中途半端に残った酒を一気で呑んだ。さすがに一気はちょっとキた。ぐるぐる回り始めた頭でざっと片付けて、歯磨きをしながら冷蔵庫のパンをぐるりと天地逆にして、と、動いていたから余計にぐるぐる世の中が回り始めた。まぁ今夜の獄寺にのぼせたオレはこのぐらい酔っぱらっているのがちょうどいいぐらいだろうな、って納得した。
「おやすみー。明日、先に起きたら起こしてー」
 とうに寝ていると思いながら声をかけたときに呼ばれた。
「どしたー?」
「さみぃ」
 熱でもあるのかと、額に手をやろうとしたら「ちげぇ」とその腕を取られてベッドに引き込まれた。確かに獄寺の体はすっかり冷えていた。
「おまえ今日はここで寝ろ」
 そう言って獄寺に抱きつかれて、そうまるで抱き枕状態。
 トトロ。これは何の試練だと思う?
 なんでオレ試されている感じなわけ?
 オレが獄寺をフレンチ・トーストみたいにぐずぐずにしたいと思っていたのに、オレがあっさりそうなっちゃっているんですけど。さすが獄寺。とか感心している場合じゃなくて。
 ええと。

 ――なぁ、ツナ、オレどうしたらいい?


あなたにフレンチ・トースト。おしまい。






エロの後にはくっつきそうでくっついていない二人ってことなのか、とにかく好き合っているのに関係を壊したくなくて踏み込めない二人を書くのが楽しくてたまりません。
このごっくんサイドも書いてみたいです。今日は暑い中、スペースまでお越しくださってありがとうございました。
ところで、タイトルの元ネタわかる方いらっしゃいます?
20080608 だい。






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