たいやき



「ごくでらーっ!」
 部活が終わってから急いで校門を飛び出したオレは、帰り道を半分以上走り抜けて漸くその後ろ姿を見つけた。時間的にツナの家からはもう帰っているはずとは思っていたけど、このまま見つけられないようならツナの家までいくところだった。
 呼びかけたオレの声に一瞬だけ振り返ると、歩くスピードは全く変えずに前を向く。その綺麗な髪の毛が街灯の光を弾くの見えた。
「…っと。今、ツナんちからの帰りか?」
「うるせえ。道端で喚くんじゃねえよ」
 追いついて隣を歩くオレをちらりと見上げると、獄寺はまっすぐに前を向いてしまった。もっともこんな風に並んで歩くなんて、最初は考えられなかった。  転校してきたばかりの獄寺は、誰に対しても尖った態度しかとっていなかったのに、何故かツナだけに話しかけ懐いていた。ひどく目を引く容姿なのにそれを台無しにするような仏頂面ばかりで、勿体ないなぁと思った覚えがある。少しづつ話すようになって、徐々に背中を預けてくれるようになって…ごく稀に笑顔を向けてくれるようになった。初めて見た時なんて、自分でもおかしな位に嬉しくなった。
 ――懐かない猫に指を舐められたみたいだって思ったなんて、絶対に言えないけど。
 弱い光に浮かび上がる白い横顔を見て、オレは思わず笑ってしまった。
 不意に、獄寺が鼻を鳴らした。不思議そうにオレを見上げると、もう一度匂いを嗅ぐように鼻を鳴らす。
「…甘い匂い?」
 獄寺の呟きに、オレはそれまで存在を忘れていた紙袋を思い出した。
「あ、いっけねぇ、忘れていた」
 冷めないように首に巻いていたマフラーで包んで、肩からかけたバックの一番上に入れてある。バックを開けると甘い匂いが途端に強くなった。オレもその匂いを吸い込むと、紙袋を開ける。
「獄寺も食べる?」
「…たいやき?」
 中から自分の分を取り出すと、紙袋ごと獄寺に手渡した。
「途中、商店街を通ったとき買ってきた。ちょっと腹減っててさー」
頭からかぶりつくと、粒餡の甘い匂いが口の中に広がる。商店街でも人気のあるこのたいやきは、甘すぎない粒餡がほどよく入っているところがオレのお気に入りだった。
「美味しいんだぜ」
「ふーん」
 二口目を食べるオレを見上げてから、獄寺は紙袋からたいやきの頭だけを出して一口かじりついた。もぐもぐと口を動かすと、もう一度「ふ」と鼻を鳴らした。その様子を見て、オレは思わず吹き出てしまう。
 二口目をかぶりつきながら、獄寺は不審げにオレを睨み付けてきた。
「…何だよ」
「いやっ…なん、でも…ない」
 一度笑い出すと、止まらなくなった。でも、獄寺の眉間の皺が危険な深さになってきたので、オレは早々と白旗を上げる。
「白状するか?」
「するけど…怒らねぇ?」
「聞かないうちから約束できるか。吐け」
 胸ぐらを捕まれたので、オレはたいやきを持ったまま両手を上げた。
「そうやって、たいやき食べてるのが、ホント可愛いなぁって」
 ――ホント、猫みたいで。
 にっこりと笑って言ったオレの言葉に、獄寺の顔が一瞬にして赤く染まる。逃げ出す直前にその手を掴み、獄寺のたいやきに一口かじりついた。
「お前っ…なに、バカなっ…」
「ごくでらー」
 間延びしたオレの声に、獄寺は真っ赤な顔のまま睨み付ける。
「ご馳走様」






ごっくん→猫→魚→たいやき…しーん。/つねみ






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