ユビキリ



 夜の学校に 良い思い出がある人はあまりいないだろうなとぼんやり考える。
 綱吉にとっても思い浮かぶのは 小さいころに聞かされた学校の怪談の類や 最近ではボンゴレリングをめぐっての諍い、そんなところだ。
 昼間体育の授業で使ったプールは今は月を写すだけで底の見えない暗い水。

 帰宅時に夕立が降って少し濡れた。 
 山本や獄寺が賑やかにかまってくるから綱吉の周りはたいがい騒がしく、今日も獄寺が綱吉を雨からかばおうとして騒ぎ、濡れるのを面白がった山本が獄寺を阻止しようとして更に大騒ぎになって リボーンに呆れられた。 自宅に帰り着いてみると母はちびっ子たちと一緒に買い物に出て不在で、めずらしく静まり返っていた。 そのときに ふと意識した水の匂い。
 ただそれだけのことが綱吉を今、夜のプールサイドに立たせている。

 片手を水に浸けてかき回し 映った月を散らしてみる。
 暑い日本の夏には 水はただ心地よく あの冷たい水とは随分と違う。
 思い起こさせるとしたら この底の見えない暗さと水の匂い。

 だからといってこの水と あの冷たい牢獄とが繋がっている訳はない。 そう思いながらも水に触れる手をまだ引き上げる気にはならなかった。
 以前、あの男に同情しようとした自分にリボーンは戒めの言葉を送った。
 忘れてはいけない。 彼は罰を受けている身だ。 なぜ罰を受けているのかその理由を忘れはしない。
 それでも。

「ねえ 骸、お前は俺のファミリーだ。 俺から手を離すなんてことはしないから覚悟しててね」
 いとおしむように数度水をかき回すと綱吉は立ち上がる。
 見つめている間に水面は静まり 再び月を写した。
 暗かろうと、底が見えなかろうと、光を宿すこともできる水。
『やっぱり 骸、お前みたいだ』
 満足げに笑って綱吉はプールに背を向けて歩き出した。
 その瞬間 わずかに水音がたった気がして1度だけ振り返る。
 変わらず月を写す水面に首をかしげて また歩き出す。
『相変わらず 甘いですね ボンゴレ』
 そう言って笑う男の声が聞こえたような気がした






ツナの、骸さんに対するある意味宣戦布告です。まだまだ恋愛未満ですが(笑)/主任

主任からいただきました。有難うございました! 20080101






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