Happy Birthday!



 その日は、ボンゴレが古くから懇意にしているファミリーの女主人の誕生日を祝うごく内輪だけのパーティーだったから、古い屋敷の大広間はカルテットが奏でる軽快なワルツと招待客達の笑い声交じりの囁き声で満たされ、女主人の人柄を表すような温かく朗らかな雰囲気に包まれていた。
 手入れの行き届いた中庭に面して大きく開け放たれた窓からは、主自慢の庭園から花の香りを纏った心地よい風が吹き込んでいた。たっぷりとドレープを取ったカーテンの影に隠れるように壁際に身を寄せていた青年は、毛足の長いカーペットに吸い込まれる筈の足音を正確に読み取ると、闇に沈む庭園に投じていた視線を静かに近づいてくる男に向けた。
「素晴らしい演奏でした。相変わらず…いや、より音の深みが増したようですね」
 賞賛の声と共に差し出されたフルートグラスを受け取ると、軽く揺れた水面から甘い香りが立ち上った。
「有難う、骸」
 翠の双眸を僅かに細めて小さく首を傾げると、項で緩く纏められた銀髪がさらりと揺れた。年を経て精悍さと美しさを増してもなお変わらないはにかむような笑顔を彩るその色合いに、骸は表情を穏やかに緩めた。
「マスターも久し振りに貴方の演奏を聴けて、喜んでいましたよ」
「本当に?…良かった」
 今日の主役である女主人は彼を幼い頃から知っており、ボンゴレ屋敷の人間以外には人見知りの激しかった彼が心を許していた数少ない人間の1人だった。
「久し振りに彼のピアノを聴きたい」という彼女の願いを叶えるべく慣れないパーティーに出席したものの、内心、彼が敬愛するボンゴレ10代目にその演奏を聴いてもらいたい、というささやかな願いもあったから、骸の言葉に彼は涼やかな美貌を綻ばせ、幼子のような笑顔を見せた。

 骸が初めて彼と逢った時、彼は幼くおとなしく口も利かず、文字通り人形のようだった…丁度、骸を初めて見て叫び声を上げた幼いマスターと同じくらいだっただろうか。
 あれから年月が経って、幼かったマスターは立派なボスへと成長し、その友人である男が連れてきた彼は、ずっと変わらぬ姿を保ち続ける骸と違って、花開くように成長した…まるで、その隣に立つ男に必死に追いつこうとするかのように。
 あの頃はしゃがみこまなければ目を合わせる事も声をかける事も難しかったのに…今や骸と殆ど同じ高さになった彼の目線の先では、年を重ね穏やかな表情に貫禄さえも漂わせるようになったボンゴレ10代目と、未だ青年のようなしなやかさを感じさせる真っ直ぐな背中をこちらに向けて立つ黒髪の男が、招待客の女性達に囲まれて談笑していた。
 先刻までの晴れやかな表情を消して、俯き加減でグラスの縁に唇をつける彼の姿は、儚く揺れる花を思わせた…プランツに必要なのは、お日様でも水でも栄養でもない。ミルクと砂糖菓子だけじゃなくて、ワインやチョコレートを口にする事が出来るようになっても、それでも一番大切なのは…。
 気づかぬ素振りでグラスを呷る骸の視線に気づいたのか、彼は不貞腐れたような口調でぽつりと零した。
「……香水の匂いがして、うっとおしいんだよ」
 いー年して、鼻の下伸ばしてデレデレしてんじゃねえよ、などと罵倒の言葉をひとりごちるその横顔は、憂いの色を帯びてもなお雨上がりの新緑のように瑞々しく鮮やかだったから、
 (相変わらず、愛されてますねえ…)
「神の耳」と称される鋭い聴覚を持つ彼に悟られぬよう、骸はグラスの中身と共に思わず零れそうになった言葉を飲み込んだ。






馬さん、はぴば!
とか言いながら、大人プランツごっくん(後ろ結び!)とむくむくを並べたかったオレの趣味です(爆)/わんこ






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