アルコール



ミーティングという本日唯一の仕事を終えた山本は、一緒に連れてきた隼人の姿を探して廊下を歩いていた。元々休日だったはずなのに、他の人間の都合でどうしてもこの日にミーティングを開くはめになってしまい、このためだけにボンゴレの本部に来ていたのだ。
もっとも、一緒に来た隼人はボンゴレの書庫が子供のときから気に入っていたので、むしろうれしそうにしていたのだが。
――この時間だったら、サンルームかなぁ。
念のためと覗いた書庫にも書斎にもいなかった。山本は隼人が気に入っているもう一つの部屋へと向かう。廊下を早足で歩く山本の目に、屋敷の1階にあるサンルームの扉が勢いよく開くのが見えた。
そこから飛び出してきたのは、普段なら絶対にそのようなことをしない人物で。
「エリザベッタさん?どうしたんですか?」
「ああ!山本様!」
若くしてメイド長となった彼女は、歳若い執事よりもこの屋敷を把握しており、その年齢の割には常に冷静な女性だった。それがこんなに慌てているなんて、山本は今まで見たことがない。
「すぐにDr.シャマルに連絡をとりますから。大丈夫だと思うのですが…」
「へ?」
「とにかく、綱吉様に連絡先を聞いてまいりますね」
いつもならきっちりとしていくはずの御辞儀もそこそこに、エリザベッタは廊下を駆け出していってしまった。
「…シャマル、だって?」
ふとよぎった嫌な予感に、山本は慌ててサンルームの扉に手をかける。
「はやっ…」
「やまもと〜!」
扉を開いた瞬間に山本はいきなり首を絞められた。
「う…ぐっ!?」
「どこにーいってたんだよぉー」
山本の首を力一杯締め上げてぶら下がっているのが誰だかすぐにわかったが、理解することができない。
「ううっ…!?」
「やーまーもーと!」
目の前で揺れるプラチナの髪の毛は、最近はめっきり素直でなくなった山本のプランツドールのもので。山本の胸にすり寄るようにして、隼人は抱きついているのだ。
「はや…と!?」
「うん」
名前を呼ばれて嬉しかったのか、少し力を緩めて上目遣いで山本を見上げてくる。少年と呼ばれるような外見になってきたとはいえ、まだ身長は山本の胸ほどまでしかない。その角度で見上げる瞳は、何故か潤んでキラキラと光を含む。
「寂しかったんだから…」
薄く唇を綻ばせて、小さく呟く。上気した頬と、薔薇色に色づく唇から匂いたつ香り、山本は目眩を感じずにはいられない。
――って、この匂いは。
「…アルコール?」
「ん。むくろが…」
「骸!!」
「何ですか?」
山本は、サンルームのソファーで優雅にワイングラスを傾けている骸を怒鳴りつけた――隼人の腰に手を回しているその姿は、少々迫力にかけるものだったが。
骸の周りに座っているのは、たまたまボンゴレ本部に顔を出していたリボーンとランボなのだが、その二人も素知らぬ顔でグラスを傾けている。
「お前、隼人に酒を飲ませたのか!?」
「しょうがないでしょう。本人が飲むって言い出したのですから。誰も止めませんでしたよ」
「隼人が?」
おそらく、隼人がサンルームで本を読んでいると、この3人がやってきてワインを開けたのだろう。隼人が興味を持って「飲みたい」と言い出したというのは、簡単に想像出来た。
――だが!それとこれとは別だ!
別にアルコールを飲むことは構わないのだが、山本は初めて飲ませたというのが自分でないのがとんでもなく腹ただしいのだ。正直、かなり面白くない。
「グラス1杯も飲んでいないのですけどねぇ」
「…てめぇ」
火を噴きそうな山本の目線を、骸は涼しい顔で受け流している。
「ランボもリボーンもだ!これだけ大人がいて誰も止めなかったのかよ!」
二人は肩をすくめるだけで、何も答えない。
「この中で止めそうな人なんかいませんよ。それに…」
骸は満面の笑みで続けた。
「僕は、永遠の17歳ですから」






お前はメイドカフェか(爆。/つねみ(080129)






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