愛とは、(love is BLIND)である。



 本が詰まった袋を手にランボの部屋に戻ると、玄関から部屋の奧まで足の踏み場もないほど、色とりどりの服と靴と箱とアクセサリーが溢れていた。ランボの仕業に違いないが一体何事だろう?
「お帰り。ちょっと散らかってて悪い」
 奥の部屋からランボが大声で叫ぶ。これはちょっと、どころじゃねーだろ。服や箱を踏まないように進む。赤いチャイナ服を着たランボはベッドに座って、ガーターストッキングを慎重に履いていた。
「何、やってんだ?」
 いくら細くても女物は全く似合わないどころか気持ち悪いぞ。
「ボヴィーノの仮装大会」
「大概アットホーム過ぎやしないか?」
「地域密着型ですから」
「マフィアとはそういうものだろう」
 両足を履き終わるも、腰から伸びる細いベルトに止められない。こういうのは服を着る前に止めるもんだ、と手を出してしまう。チャイナ服の背中のチャックを上げきって、髪の毛を整える。目を合わせて余りの気持ち悪さに吹き出した。からかうつもりにもなりはしねぇ。
「優勝の基準は気持ち悪さか」
「まさか。優勝者には一週間のバカンスがもらえるんだぜ」
 ランボは鏡で全身を写し、吐くジェスチャーをして、チャイナ服ををさっさと脱いで次の服を手にした。
「どこ行くんだ?」
「何言ってんだよ、他のファミリーになる奴とは一緒には行かねーぞ」
 流れでチャイナ服を受け取って、ハンガーにかける。
「嘘だよ。怒んなって」
 ハンガーをどこにかけようか迷う俺の首に片手を伸ばしてキス。
「オレたちは赤い糸なんてぶっちぎりの鎖で繋がれているんだから、ちょっとやそっとでは離れないんだろ?」
「ばーか、見えねーものなんて信じねーよ」
「何を言う。アンタこそ愛なんて見えないものをずっと待っていたじゃねぇか」
「そうだったか?」
「見えないものこそ大切だ、と星の王子様も言っているぞ」
「ボヴィーノ星のか?」
「……そだね、オレでもいいや。どうよ」
 服とセリフとダブルミーニング。今度はアオザイ?だから、女物は似合わねーんだよ。
「イマイチ」
「じゃ、次は、これかな?」
「マリリンはやめとけ。俺の夢を壊すな」
 白いフレアスカートと金髪のウィグをランボの手から取り上げる。
「もしかして彼女がヴァージンだと思うクチ?」
「どう思おうと勝手だろ?」
「ドンファンのくせに。リボーンもコレ着てみなよ。アンタならきっと似合うぜ。メイクもして、さ」
「あぁそうだろうな」
 生返事をして、アメリカ空軍の隊服をとる。ランボに当てると可も無く不可も無く。
「元がいいからなんでも似合っちゃうんだよなー」
 ポージングをしながら、次のハンガー、半世紀ぐらい前のロックスターの衣装。よく、こんなのあったなぁ。時代はめぐるというが、流石にこれはおかしいだろう。次。
「で、ボンゴレは正式に決まったの?いつから?」
 バレエのチュチュ。却下。手にした自分がおぞましい。
「いつでもいいらしいから、お前がバカンスから戻ってきたらにしてやるよ」
 次の衣装を探す俺の肩をつつかれる。振り返ると、日本の裃と袴。似合うとか似合わないとかのレベルを超えている。却下。
「リボーンはどこに行きたい?…俺と一緒ならどこへでもって言えよ」
 ドラキュラ。ハロウィーン関係はありきたりだな。却下。
「お前の頭の螺子はどこにあるんだろうな」
 スコットランドのバグパイプ奏者。チェックのキルトにハイソックス…却下。
「あそこ(教会)に置いてきたさ」
 アラブのベリーダンサー。色気が全くない。却下。
「今度は俺が養ってやる」
 ハワイのフラ。意外性がないので却下。
「高いよ?」
 カーテンか?と思ったそれは、ギリシャ時代の彫刻風。ふむ。
「そう躾けた」
 白いドレープたっぷりの衣装にオリーブの葉の冠。アポロンか。アポロンに謝れ。でも、まぁ一番マシなんじゃね?
「惚れ直した?」
 ランボのウィンクにリボーンは車の鍵を手にした。裸に近いその格好を隠すように、ロングコートを羽織らせる。
「あぁ、恋は盲目という諺はホントだな」
「うわ。え、マジ?」
「送るぞ、その酔狂なパーティに」
 ランボは麗しいリボーンの微笑みを両手で挟み、熱いキスを送った。






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