SWEET MEMORIES



「かわいらしいですね、マスター」
 やっと登場した骸に綱吉は抱きついた。
「どうしたんですか?お昼寝が足りませんでした?」
 違う、というように綱吉は骸の腕の中でかぶりをふる。真っ白いウサギの長い耳がそれにつられて大きく揺れる。
「目が真っ赤ですよ。ゴミでも入りました?痛いですか?」
 骸の青と赤の目が近付いてくる。綱吉は今日一日捜し求めたその目が見たくて骸を迎えるように大きく、開く。
「ゴミは入っていないようですね」
 心配そうに細められる二色の眸に心が痛んで綱吉は骸の顔に手を伸ばした。
「大丈夫、痛くないよ」
「じゃ、原因はランボですか?」
 しょうがないですね、と笑いながら軽くためいきをついて骸は白いうさぎを抱き上げてランボを探した。
「あ、骸発見!ツナかわいいでしょ!」
 ランボが家庭教師をひっぱってきた。骸も探していたらしい。
「どうよ、リボーン?」
 綱吉はリボーンに詰め寄られ、逃げるように骸に体を押し付ける。
「食べてもいいのか?」
 黒い本気さを感じ取った綱吉はヒッと喉の奥で叫び骸に抱きついた。
「リボーン!またそゆことを。ツナがビビってるだろ」
「そのぐらいカワイイってことですよ」
 綱吉の頭を白いぽふぽふした生地越しに撫でながら骸は囁いた。
「…むくろは?」
 綱吉はしがみついている骸にそっと聞く。
「ん?」
「むくろは?」
 骸は綱吉が何を求めているかをその必死な眸に探した。
「…すごくかわいいですよ。似合ってますよ。大丈夫、あの呪いの赤ん坊からはちゃんと守ってあげますから」
 綱吉は、すごくかわいい、という骸の言葉だけで安心して体中の力が抜けたように笑った。リボーンでなくても食べちゃいたいぐらいだ、とランボも、そして多分、骸も思ったに違いない。
「さぁ私たちだけで楽しむのは勿体ないですから、エリザベッタたちにも見せてきましょう」
「ツナ、さっき教えた言葉、骸に言ってみて」
 骸の腕から下ろされた綱吉に、ランボがしゃがんでそっと呟いた。
「なんだっけ?」
 ランボの耳に小さな手を当てて聞き返した。
「ほら、魔法の言葉。トリック…」
 あ、と綱吉は思い出して、骸の足に抱きついた。
「むくろ」
「なんでしょう?」
「トリックオアトリート!」
 骸は一瞬、目を見開いて負けた、というように片手を額に当てて苦笑した。
「どちらも嬉しいけれど困りますね」
 骸はジャック・オー・ランタンの描かれた包み紙のクッキーを綱吉の両手にうずたかく積んだ。
「くれるの!?」
「ええ、おかしをくれないといたずらしちゃうぞ、って意味ですから」
「そうなの?」
 意味を知らなかった綱吉は困らせるつもりはなくて肩を落とした。骸は片膝をついて綱吉の顔を覗き込む。
「違うんですよ、マスター。今日は子供はみんなその言葉を言わなければならないんです。そういう日なんですよ」
「ほんとに?困らない?」
 もちろん、と骸は笑顔でうなずいた。
「じゃ、行こ!」
 綱吉はランボが用意してくれた袋に骸からもらったクッキーを入れて、片手に持ち、片手で骸と手をつないだ。
「あー、俺一緒に回りたかったのに」
「マスターを泣かせた罰です。僕が回ります」
「来年、すればいいだろ?」
 リボーンに腰を抱かれて引き寄せられた。
「アイ、サー。ツナ行ってらっしゃい。いっぱい貰っておいで」
 綱吉は満面の笑みで、袋を持つ手を振った。
「来年はどんなかっこうさせようかなぁ?」
「Trick or Treat」
 耳元で囁く家庭教師にランボはニヤリと笑った。
「俺は寧ろいたずらされたいなぁ」
 黒ずくめの家庭教師は肩をすくめて、ランボの耳を甘噛みした。

 ――後で聞いたら図書館で俺をみつけたのはリボーンだったんだもんなぁ、ホント騙されたよ。
 綱吉はぽんぽんと喜ぶ隼人の頭を撫でながら現実に戻る。
 しっかし。ランボは何年たっても同じことばかり繰り返す。こんなんじゃ、オレに子供できたらすぐに犠牲者だよ。
 と、考えて自分が子供を持つなんて全く考えたことがなかった綱吉は恥ずかしくなって隼人より低くしゃがみこんだ。
「ツナ?」
 顔を上げると心配そうに見下ろす隼人と目が合った。
「なんでもないよ。山本もすごく嬉しそうだし、よかったね」
「うん」
 隼人はくるりとマントを翻して、山本の足に体当たりをするように抱きついた。華やかな笑い声に苦笑する綱吉に骸がそっと囁いた。
「Trick or Treat」
 ポケットには隼人に上げたものと同じチョコレートが一つ。
「子ども扱いすな」
「懐かしいことをしたっていいじゃないですか」
 大げさに両手を広げて訴える骸に綱吉はもう、と文句も返せずに笑うしかなかった。
「いつまでオレを甘やかすんだよ」
「さぁて、いつまででしょうね」
 小さい頃ずっと追いかけていた赤と青の眸が細められる。
 今ならわかる。それは痛いのではなく、愛しいからだと。
「三つ子の魂、百まで」
「マスターの場合は六つ子の、ですよ」
 いつしか抱きしめられなくなったけれど、それでも暖かい存在は変わらない。それはきっとこれからも、ずっと。
 願わくば、ずっと、ずっと。






挑戦してやっぱむくつなは難しいなぁ。わんこさんみたいなひりひりしたものは書けませんし、ちびっこツナは3歳児みたいで難しい。と。
でも、わんこさんが楽しんでくれたらいーんです。うん。ま、リボラン書きたかったのなのその1。
だい。 2007/12/07






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