初雪



「わああ!やまもと、ゆきっ!」
ホテルの窓に顔を貼り付けて、息で曇る窓ガラスを何度もこする。おそらく初めて雪が降っているところを見たのだろう、隼人は目が覚めるなりベッドから飛び出していた。
トリノに到着したときはもう夜中近くだったため、隼人は飛行機を降りるあたりから既に眠っていた。彼にとっては、気がついたら目の前に雪景色があったということだ。
「はやとー。とりあえず朝ご飯にしよ?」
笑いながらかけられた山本の声も、耳に届いていないらしい。山本は窓辺で空を見上げている隼人の後ろから腕を回して、その身体が冷えないように抱きしめる。
「隼人。ご飯食べたら外へ行こうな」
「ほんと?」
「ん。とりあえず、顔を洗っておいで」
「うん」
隼人は、よじ登っていた椅子から降りるとスリッパも履かずに洗面所へと走っていく。山本は苦笑を浮かべながら、二人分のタオルとスリッパを手に追いかけていった。

真っ赤なダッフルコートに茶色のふかふかのブーツ。白いニットのマフラーを首に巻いて、それとおそろいのニット帽を頭にかぶせる。ちなみにマフラーと帽子は、ボンゴレ本部のメイドであるエリザベッタのお手製だ。ブーツと同じ色の皮のミトンを手にはめてやると、隼人は小さく唸った。
「あれ?苦しい?」
マフラーに埋もれた隼人が頭を振った。
「はやくそとにいきたい」
拗ねたようなその口調に、山本は思わず表情を崩す。初めて見る雪に、触ってみたくてしょうがないのだろう。自分の首にもマフラーを巻くと、山本は隼人の手を取ってホテルのロビーへと降りた。
はらはらと降り続く雪は、街中を白く覆っていく。時折車が通ったりもするが、まだ朝早いせいか人通りはまばらだった。雪道を歩き慣れていない隼人を抱え、山本はフロントで聞いた近くにある公園へと向かう。入り口に立って公園を眺めると、二筋の足跡があるだけで人影は見えなかった。
隼人を下におろしてやると、歓声を上げながら走り出す。
「隼人!急に走るとあぶな…」
「わあっ」
山本が言い終わらないうちに、隼人は雪の上でべしゃっとこけていた。しかし山本が声をかけるまえに、隼人はがばっと身体を起こした。雪のついた頭をぶんぶん振ると、笑顔で山本を振り返る。
「すごい!ふわふわしてるのにつめたい!」
山本は座ったままの隼人に近づくと、ひょいと抱えて立たせて雪をはらってやった。
「シチリアじゃ雪は降らないからなー。びっくりした?」
「うん。きれい」
そう言って笑う隼人の周りで、花びらのような雪が舞い落ちる。山本は目を輝かせる隼人を、目を細めて見つめた。
沢山の本を読む隼人は、おそらく自分より多くの知識を持っているだろう。だが彼は雪が冷たいということに、今日初めて触れたのだ。山本は隼人を色んな所に連れて行きたいと思っていた。沢山のものを見せてやりたいと思っていた。
――こんな笑顔が見れるならなー。
山本は、赤くなった隼人の頬を両手で包み込んだ。
「隼人、雪だるま作るか!」
「うん」

その日、公園には大小二つの雪だるまが仲良く並んで立っていたという。






プランツごっくんにとっての「初雪」ということで。山本、とーさん全開です。/つねみ






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