例えば、夜のバールで。 ライヴ帰りにバールで友達と呑んでたら人混みをすりぬけて小柄な美女が現れた。濡れたような黒い眸を縁取るアイシャドウが似合っていて、すごく、すごく綺麗。こんな仔猫ちゃんを見たことがなくってちょっとドキドキした。まっすぐオレに向かってくるから友達は小さく口笛を吹いた。仔猫ちゃんはぐっと至近距離に顔を寄せてきた。 「鍵貸せ」 は? 「アホ牛、鍵貸しやがれ」 全くもってにこやかな微笑みで言い放つから空耳かと思った。でもオレをアホ牛と呼ぶのはリボーンしかいないわけで。 「早くしねーとぶっ殺すぞ」 やっぱりリボーンだ!!どっからどうみても綺麗な仔猫ちゃんなのに! 「何してんの?」 「鍵」 鍵なんてなくても開けられるくせに。ベルトのキーチェーンから家の鍵を外す。 「ご飯は?」 「食ったぞ」 リボーンは頬にキスをして人込みに消えた。すげーいい匂いがするから友達と二人でついくんくん嗅いでしまった。あぁリボーンだというのに!! 友達は知り合い?今度紹介しろよ、あの顔であの口調はソソるよな、と興奮気味に話すから実は男で、凄腕のヒットマンで、年下だ、なんて言えるわけもなく。 「ランボ、だから今度紹介しろって」 「もっとかわいい仔猫ちゃん紹介するよ。アイツ性悪だから」 「だからいいんじゃん」 そうだよね。オレも男だからよくわかる。アレが本物のショーワルな女だったら間違いなく手を出すけどね。 「とにかくアイツはいつ現れるかわかんないんだからさ、ゴメンね」 話を切って元の話に戻る。ギターソロがいいのリズムがもたついててノレなかっただの。ライヴの興奮はリボーンの登場ですっかり醒めてしまった。 「今度絶対紹介しろよ!」 「だからしないって!」 パブを出て分かれると家に向かう途中、さっきのリボーンがつけていた香水の匂いがした。花のような軽やかな匂い。胸の奥がざわめくよう春先のような気持ちになって足取りも軽くなる。 「浮かれてんな」 「リボーン!」 アパートの入り口の階段に腰かけて、肘をついているのはさっきの美女でつまり、リボーンということで。 「足がいてぇ」 投げてくる鍵を受け取ると、石畳の上に華奢なピンヒールが転がっていたのが見えた。 「やれやれ。痛いなら履かなきゃいいのに」 ハイヒールを指先にひっかけてリボーンを抱き上げると、ふんわりと春の匂いがした。 まだオレより小さな体。でも他のアルコたちみたいにすぐ成長しちゃうんだろうね。 「全然わかんなかったよ」 「アホ牛にわかるレベルじゃ仕事ができねー」 「でも、ボンゴレにはわかるんだよね」 「あいつにゃしょーがねー」 椅子に下ろをうとすると銃をつきつけるので、テーブルに下ろして自分が椅子に座った。 「で、どーしたの?リボーンが来るなんて珍しいな」 リボーンはいつものように薄く笑ったまま何も言わなかった。沈黙が続き、なぜか気まずい空気になっているような気がしてきた。 「リボーン?」 「眠い」 「ええ?ホラお化粧おとしたり着替えたりしなきゃ」 「うぜ」 と一言残してほんとに寝やがった。薄く笑ってたんじゃなくって、眠くて仕方がなかったんだ。もー。寄りかかるように寝るからそのまま抱きあげてベッドに運んだ。カツラも服もぽいぽい脱がせるとご丁寧に女性物の下着まで身に着けててこっちが恥ずかしくなる。これ仕事じゃなかったらただのド変態だよね!! 顔だけ化粧しているのも変でクレンジングで化粧を落としてあげる。 やっといつものリボーンに戻ったから胸の動機が収まる。 それにしてもいつからリボーンはオレのことを見るようになったんだっけ?記憶にある限り痛い思い出しかないんだけど?ランボさんのことをやっと人間として認めてくれたのかな?やれやれ。 リボーンの服をハンガーにかけていると、春の匂いの残り香がした。その香りを記憶するように深呼吸して、リボーンの眠りを邪魔しないように、そっとドアを閉めた。 リボラン拍手1 20070427 とりあえず、ランボさんは気付いていないのな。 /だい。 |