i do not care, but.



 小さなライヴハウスはたった一人のロッカーの音に満たされていた。ランボはビールグラスを揺らしながら壁に寄りかかっていた。ほどよく人が溢れていて、中央のまるでジョン・レノンのような黒い小さな眼鏡をかけた男のギターの旋律に耳を委ねていた。

 "You are not alone, but I am. All things passed away that I wasn't
notice, There's no mistake about my Love. and sure … "

 暗闇に溶け込むように目を閉じていたランボの体に誰かがぶつかった。酔っぱらいの多い中、おおかたそんなもんだろうと片目を開けると、悪戯を企むキラキラした黒目がちの女性がいた。
「なに浸ってんだ、きもちわりーぞ」
「女装マニアに言われる筋合いは無い」
 確か、去年もそうだった。甘やかな春先に同じような女性の姿でリボーンは不意に現れてランボの生活を切り裂いた。

 "I will Love you ever even one-century later"

「酔った」
 リボーンはくたりとランボに寄りかかった。年々成長しているが、ランボの背を越すには後一年は必要そうだ。一回り華奢な体を抱き留めてランボは宙にためいきをつく。男だってわかっている。リボーンが酔っぱらうこともないことも知っている。けれど、こんな華奢なワンピースでこんな細い腰回りで抱きつかれたらそこに手を回すのも男の摂理ってやつで。

 ――いやいや、それは間違ってるよ、オレ!

 実際にリボーンの饒舌な目だってそう言っている。間違いなのわかってるだろ。でもいっちまいたいんだろ?

 ――こんの性悪が!

 青く染まった指先がランボのシャツにしがみつく。その指をたぐり寄せて囁いた。
「ボンゴレにチクるぞ」
「これはツナの気に入りの格好だぞ」
「嘘だ!」
 静かなロッカバラードの中、ランボの声が響いた。あぁもう!居たたまれなくなったランボはリボーンを抱き込んで壁から背中を剥がした。

 人混みをかきわけて外に出ると中と変わらない湿度と暑さでランボは余計に苛立ちながら振り向いた。
「なんでオレの邪魔ばっかりするわけ」
 食ってかかるとリボーンは満面の笑みで「嫌がらせ」と一言。そして、すっと右に足を出すと後ろから出てきた若い男の足にひっかけた。
「ちょっ……と」
 リボーンを咎める声は途中で止まった。ライヴ中よく目が合っていた男だった。そして彼の転んだ先には、刃渡り数センチのナイフがライヴハウスから零れる灯りに反射していた。
「てめーなんざどうなろうと知ったことねーけど、なにかあるとツナがぴーぴーうっせーからな」
 まっすぐランボを見つめた笑顔のまま、ナイフをつかもうと足掻く男の手の甲に、リボーンはピンヒールを突き立てた。その痛さを想像して、思わず男への同情を禁じ得なかった。リボーンはついでとばかりに後頭部を尖った靴先で蹴り昏倒させる。鮮やかなリボーンの手並みにランボの心はぐらりと揺れた。
「変な趣味に走りそうだ」
「とっくに走ってる。いい加減気付きやがれ」
「ライヴ戻っていい?」
 リボーンはこのアホタレが、と眉をしならせるだけで伝えてきた。撃たれなくてよかった、と歩き出すリボーンの背中をちょっとだけ眺めてランボは隣に並んだ。高いヒールにはエスコート役が必要でしょう。
「習慣性を作るな、アホ牛」
 マフィアの襲撃の基本を教えてくれる。でも、久しぶりだったんだよ?ランボはそう思いながらも、一つ気になることがあった。
「ボンゴレに言われたの?」
「いや」
 それ以上リボーンは教える気はないようだったが、ランボは一つの証明に気付かれないように口元を綻ばせた。

 ――それって、敵じゃなくてアンタもオレの趣味を把握しているってことじゃないの?

「さっきの男どうすんの?」
「獄寺に連絡しといたから回収しているだろ」
 心の中で十字を切る。明日、怒鳴られるのは必須だ。
「今夜、来る?」
「あぁ。時間外勤務だ。ねみーぞ」
 途端に寝始めるリボーンを抱えてランボは慌ててタクシーを止めた。

 ――全く素直じゃないね。でもま、甘えられるのは悪いことじゃない。

 腕の中の、思考不明なリボーンの額に助けてくれた感謝のキスをした。






某ロックVo.のライヴ中に話の破片が浮かんだ話。昨年もリボ様の女装話を書いたけれど、その時もランボはライヴ後でしたが、どうもランボ=ライヴ=女装リボとおかしな関連づけがされているようです。それもこれも24ランボがちょっとボヘミアンの香りがするからです。クストリッツアのSUPER8のようなツアーにお仕事で潜入するような24ランボ話(もちろんリボラン!)を暖めています。20090714/だい。






MENU