la primavera



5分だけのタイムトラベル。
着いた先はふんわりした花の匂いが漂う夜だった。
不意に強い風に煽られて携帯を持ったまま片手で顔を覆う。流石に電波は時空を越えられないらしく無音だった。太いごつごつした木に背中を預けて時がたつのを待つことにする。

真夜中の公園。ふと寂しさを覚えたのは、10年前のオレがバズーカを使う時は100%トラブルの最中で、それはつまりバズーカで呼ばれる時は絶対に騒動の真っ只中ということに他ならない。なのに今は誰もいなかった。だから妙な寂しさを感じたんだと思い当たった。何があったか推測することも無駄だろうし、10年前のオレが一人でこんなとこをうろつく筈も無いだろうから若きボンゴレのお宅へと行くことにした。うろ覚えだけれどもきっと大丈夫。もしかしたらオレを探している若きボンゴレやママンと出会えるかもしれないし。
真夜中の住宅街はしんとしていて、そこかしこの陰から何か出てきそうで、つい繋がらない携帯を握り締めた。
風が止んだ路地では、どこかからふんわりとした匂いがした。甘いような懐かしいような、記憶をくすぐる香り。何の花の匂いか全然思い当たらないけれど、気持ちがざわめいてくる。胸の奥がくすぐったくなって笑い出したくなる。体が軽くなって走り出したくなる。
「…リボーン…」
呟いたことに驚いた。
途端に胸の奥が落ち着かなくなってくる。
なんでここにヤツの名前が出てくるんだ。そして、この落ち着かないのに愉快な気持ちはなんだろう?胸に手を当てても思い当たる節がない。
気をつけないとわからないぐらい空気になじんでいる匂いを嗅ぐと、今度は心拍数が増えてきた。
もしかしてどこかのマフィアの最新兵器?いやでもまさかそんなはずはどんな理由で。
「−−リボーン」
試しにはっきり言ってみた。
もっと大きくなると思った気持ちは反対に落ち着いた。ウキウキしていた気持ちが冷めて地面に降り立った。
危ない、危ない。なんの呪いなんだ。一人が淋しくてドキドキするなんてありえない。
そしてリボーンの名前は絶大だ。にっくき仇敵。こんなところでビビってるわけには行かないからな!

それでもふと香る花の匂いにまた気持ちが盛り上がりかけるから慌てて「リボーン」と呟く。今夜の並盛は一体どうなってんだろうね。やれやれ。小さい声でリボーン、リボーンと呟いているとじきに若きボンゴレの家という角まで来た。口癖になったかのようにリボーン、リボーンと呟いたまま、この角を曲がればそう、すぐ。
「呼んだか?アホ牛」
オレに応えるような声に心臓が止まりかける。振り向く前に白い煙に包まれて体を引っ張られた。
今のは確かにリボーンの声だった。そして、オレの心臓は確かに一度止まった。まるで声に射抜かれたみたいに。

タイムトラベルから戻ってきても通話が戻るはずもなくて、迷わずリダイヤルボタンを押した。
あの時なんでオレは夜の公園にいたんだろう。ヤツなら絶対覚えている筈だ。こんなに話したいのにコール音が続くのはわざとだ。あいつはすぐにこんな意味の無い嫌がらせをすぐにする。
「リボーン!リボーン!!」
『呼んだか?アホ牛』
−−期せずして、その甘い声に、オレの心臓はもう一度撃ち抜かれた。






春は恋の季節です。 だい。2008/3/11






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