本日のディナー 獄寺は料理をしない。 細かい所に気が回ったり、緻密な考え方をしているくせに、こと料理に関しては才能を与えられなかったらしい。二人で暮らし始めてから何度か手伝おうとしたが、ことごとく悲惨な結果になっていた。本人が気に入っていたジノリを割ったときはかなり凹んだらしく、それ以来エスプレッソを淹れる以外は、絶対に手を出さなくなった。 だから、俺が料理をしているときは、大抵他の事をしている。普通はピアノを弾いているし、仕事を持ち帰った時はリビングでPCを睨んでいる。機嫌が悪いときはソファに転がっていて、機嫌が良いときは―― 「山本、ワイン置くぞ」 俺が料理をしているカウンターの前に椅子を持ち出して、雑誌なんか眺めていたりする。 「おー、サンキュー」 んー、と返事をして、また手元の雑誌を捲る。自分で白ワインを開けて俺にまで振る舞うなんて、相当機嫌が良いらしい。牛テールを2時間煮込んだ甲斐があった感じ。 パスタ用の鍋はお湯がぐらぐらと沸騰している。塩を多目に一掴み入れてパスタを投入した。手元では、バルサミコ酢を効かせたイチヂクのサラダはもう出来ているし、魚介のフリッターもほとんど揚がっていた。 「獄寺ぁー」 「何だよ」 呼ばれて素直に顔を上げる――きょとんとした表情が、可愛いなんて思ってしまった。 「味見する?」 最初に揚げた海老のフリッターに、軽くレモンを搾って塩を振る。一つは自分の口に放り込み、にっこりと笑って見せた。咀嚼する口元でサクッという音が聞こえた。 「旨いよ」 「おー」 「はい、あーん」 海老に手を伸ばすのをスルーして、獄寺の方に指で掴んで差し出した。 「…んだよ」 「手、汚さなくていいじゃん。ほら」 一瞬眉を寄せたが、すぐに気を取り直して顔を寄せてきた。 開いた唇の隙間から、赤い舌が見える。軽く目を閉じているその表情は、かなり卑怯。 ゆっくりと海老を含ませると、ついでにその舌先を人差し指で撫でた。 「ん!」 非難するように睨むのに、目元がうっすら赤いなんて反則だよな。 俺はその人差し指を舌を出して舐め、よく冷えている白ワインを煽った。 「美味しい」 獄寺は顔を赤くして睨み付けている。その様子を眺めて満足すると、俺はパスタの茹で加減をみた――まだ早いか? 「…武」 「は?」 こういう状況ではまず呼ばれない言葉に、俺はびっくりして顔を上げた。 カウンター越しに首の後ろを引き寄せられ、軽く合わせるだけのキス。 呆気に取られている俺の目の前には、面白そうに笑っている獄寺の顔があった。 「俺、腹が減って待ちきれないんだけど」 そう言って離れようとする獄寺の細い顎を捕らえて、俺は舌を差し入れて少し深く口付けた。 パスタが茹で上がるまで、あと少し。 本日のメニュー 牛テールの赤ワイン煮込みのパスタ イチジクのサラダ 魚介のフリッター デザートでゴクデラハヤト あまりの甘さに砂丘を作る程砂が吐けそうです。 自分で言うか(爆!/つねみ |