embrace



 ――捨て猫とか捨て犬とか、拾えるようになりたかったんだ。
 膝の上に顎を載せて目を細める次郎の頭を撫でながら、山本は思い出したように呟いた。
「食いモン屋だからさ、ペットとか飼っちゃいけないんだって判ってるのにそれでも放っとけなくて。こっそりうちに連れてくたびに親父に『判ってるだろ?』って言われて」
 その時の事を思い出したのか、「怒鳴られるより効くんだよなあ」なんてぼやく横顔は拗ねた子供のようで、思わず腕を伸ばして真っ黒い髪の毛をぐりぐりと掻き乱すと、もっと、と強請るように首を傾げて目を細めた――お前、そのツラ次郎そっくりじゃねえか。声に出さずに呟くと、ソファの背凭れをずるずると滑ってオレの肩先にことん、と額を押し当てた山本は目を伏せたまま昔話の続きを聞かせた。
「最期まで面倒見れないなら、自分の力で護れないなら中途半端に手を出すな、って…結局元いた場所に戻しに行ったり、ご近所さんや店の常連さんに飼い主を見つけてもらったり」
 そのたびに幼い自身の無力さを痛感しながらも、それでも手を伸ばさずにはいられなかったのだろう。自分の弱さから目を背けて逃げ回っていたオレとは違う、それは山本が今でも垣間見せる二律背反の一片なのかもしれなかった。
「だから、強くなりたかった…ちゃんと、大事にしたいものを大事に出来るように。護りたいものを護れるように」
 顔を上げた次郎に指先をぺろりと舐められ、くすぐったそうに小さく笑う。その節の目立つ指が柔らかく触れる事も、硬い皮膚で覆われた掌が温かい事も、全部知っている。
 なあ、と呼びかける声に従い目を合わせると、見上げる黒い双眸がゆるりとたわんで硬い掌が頬を包み込んだ。
「何があっても、ちゃんと最後まで愛してやるからな」
 一瞬、息が止まる。視線が絡まったままでは内心の動揺も誤魔化せず、素直にくしゃりと顔を歪ませると、
「こっちの台詞だ、ばーか」
 頬に触れる掌に唇を寄せて、皮膚の盛り上がった指の付け根にかしり、と歯を立てた。






バンプの「embrace」も山獄だと思うんですのーっ!大好き!/わんこ






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