自分の部屋の窓



 自分の部屋に戻るとなんだかほっとするのは自分だけだろうか?ボヴィーノはもちろんのこと、ボンゴレの本部にも自分の部屋はあるけれど、やっぱりここが一番落ち着く。山本さんに知られたら、あっという間にすっげーセキュリティを作りそうだからとりあえず内緒だ。ふつーのベッドルームとリビングしかないこの小さな部屋がオレのサイズに合っていてすっげー落ち着く。
 帰ってくるなりベッドに倒れ込む。日本みたいにふかふかじゃないけれど、肌心地のいいブランケットと厚手の毛布、そして大きな羽根枕。これだけあればどんだけでも寝てられる。幸い、明日は予定がないし、残念ながら今夜も子猫ちゃんとの予定はない。歯を磨いてもう寝ちゃおう、と立ち上がったときに部屋のドアがノックされた。ここは誰にも教えていないから客が訪れるってことはないんだけど。ぎくりとして、ホルダーの銃に手をかける。
「ランボ?オレだよ」
 な、んで!
 さっき別れたツナの声だった。
 急いでドアを開けると、やっぱりツナだった。ツナの背後には誰もいない。
「一人だから、今夜泊めて?」
「な、な、なんで?」
「場所はランボについてきたから。理由はちょっと息抜き」
 これ、リボーンとかに一応言っといた方がいいんだろうか?悩む間にもツナは部屋に入り込んできた。
「リボーンにも獄寺君にも内緒で来たから連絡しないでよ」
 ジャケットの襟の裏から小さな何かをつまみ出して、窓を開け放って投げた。
「何、今の」
「獄寺君が付けた発信機」
「えー!?」
 慌てて覗き込むと、折しも乱暴な運転の車が通った。
「ごめんね、ランボ。ここバレちゃうかもしんないけど、みんなに内緒にしとくように言うからさー」
「ボンゴレ、悪いとか思ってないでしょ」
「うん。ランボの世話いっぱい焼いたからいいだろ、これぐらい」
「昔のことを持ち出すのはナシにしてくださいよ」
「えーじゃ、ここ一月分の失敗談でも話す?」
「リボーンに電話しますよ。わぁぁぁぁ嘘です!!」
 ツナはにっこり笑ってオレの携帯すら投げ捨てようとした。ううう。が・ま・ん。思わず泣きそうになるけれど、こんなことで泣いたら男がすたる。そしてツナはそんなオレを見て大爆笑だった。
「何がそんなに」
「ランボは変わらなくていいなぁ」
 シャワー借りるね、と勝手に断ってバスルームに消えた。
 なんなんだ、せっかくの貴重な時間を。
 本気で泣こうかと思った時に電話が鳴った。獄寺さんだった。オレからかけたんじゃないから、いいよな。
『テメェ早く出ろ。今どこだ?』
「自分ちです」
『住所は?』
「……覚えてません。引っ越したばかりなので」
『あぁ?少しは役立てよ』
「獄寺君?ごめんねー、発信器間違って潰しちゃったんだけど、今夜はランボんちに泊まるから心配しないで」
 後ろからツナに電話を取り上げられた。
「結構すぐバレちゃったね」
 いや、ふつーバレるもなにも、あの人片っ端から守護者に電話したに違いないね。それを知っててこの人は。だったら早く電話すればいいじゃん。そう思っている間に、ツナは腰にタオルを巻いて、しっかし暑いねーと窓から外を覗いた。
「ボンゴレ、さすがにそこに座るのは」
「大丈夫だよ。それよりホラ」
 部屋の電気を消して窓辺に引っ張られた。夜、外を見ることなんてしなかったから知らなかった。この辺は低層の建物しかないから結構きれいに空が見えた。今日は新月で星だけがたくさんの飾りのように夜空を飾っている。
「自分ちみたいだ」
 ツナがぼそっと呟いた。
「ボンゴレ?」
「並盛のさ。ほら、部屋からよく見たじゃん」
 渡したバスローブを着るとベッドに寝ころんだ。おいで、おいでとされて隣に寝転がる。
 あ。
 ツナの言う通りだった。蒸し暑い夜に窓を開けて床で寝ころんだ時と同じ夜空だった。チリンと風鈴が鳴る音まで聞こえるような気がした。
「母さん、元気かなぁ?」
「ツナ、日本には帰らないの?」
「ねぇ。でも、来週母さん来るってさ」
「ほんと!?オレ、案内するよ」
「うん。頼もうと思ってた。イタリア語全然駄目だからさ。頼むね、ランボ」
 しばらく何も言わないで昔と同じ星空を見ていた。気付くと、ツナはすぅすぅ寝ていた。この人、ほんと無防備過ぎ。でも、オレだってボンゴレ10代目を一人で護衛するなんて無理だからね。癪に触るけれど、山本さんでも呼ぼう、と携帯に手を伸ばすと「ランボ」と呼ばれた。どきーん、と心臓が跳ねたけれど、どうやら寝言だったみたいだ。わかったよ。その超直感で襲われそうになったら自分で自分を守ってくださいね。間違ってもオレなんか頼らないでくださいね。そして、この場所はいつでも来ていいから、この部屋も守ってくださいね。
 そう覚悟を決めて、タオルケットをツナにかぶせた。どれだけすごいドンになっても寝顔だけは変わらないなぁ、と思った。そして、夜風にまた風鈴の幻聴。そうだ、来週来るママンに風鈴を買ってきてもらおう。珍しくいい考えを思いついてオレは自分に、笑った。
 そしたら、ますますあの部屋に似てくるじゃないか。






自分の部屋の窓 from 「空を見上げる場所での10のお題」

使い回しのネタしか思いつかなかった…。年々黒くなっていくのに獄寺の前では昔の自分を演じている自分がいて、それに疲れちゃって八つ当たりするのにちょうどいいのがランボで、という流れでの10代目でした。だい。






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