沈黙は死



ボンゴレ内部の病室。エアマスクや点滴、心電図を取るためのチューブ等で体中を繋がれている獄寺の横で、山本は食事も取らずに佇んでいた。相当の衰弱、拷問で受けた傷、失血とLSDによるショックで一時は重体だったが、今は意識が戻るのを待つ状態だった。
潰された足の指も、処置が早かったことと潰され方も―おかしな言い方だが―きれいだったので、今後の歩行には影響なく治るだろうということだった。基礎体力がある分、遅かれ早かれ意識は取り戻すだろう。後遺症は傷の治り具合で変わるということで、今の時点ではまだ不明だった。
つい数ヶ月前も同じように傷を負った獄寺をこうやって見下ろしていた。変わらない自分の無力さに悔しさしか残らない。どうして獄寺ばかりがこんな目に。どうして自分はいつも助けられない。
「よくやったな、山本」
気配なく、背後にリボーンがいた。
「ひでぇ顔だな」
ベッドに腰掛け長い足を優雅に組む。
「今回のことは序章にすぎねぇ。お前が責任を感じることはない」
山本は力なく首を横に振る。
「獄寺はもう大丈夫だ。足も手も失わなかった。ボンゴレの名前を出すことなく片付けた。さすが」
――俺が見込んだだけあるな。
人殺しが、か?
夢中だった。獄寺を助ける前に人を殺すためらいは微塵も感じなかった。
――否。
自分は冷静だった。父親から時雨蒼燕流を受け継いだときにはっきりと「人殺しの剣」と聞いた。
そして、先日の抗争で自覚した。自分は人を殺すのに理由を必要としない種類の人間だということを。それと同じように、獄寺を必要とするのにも確固たる理由がみつからない。
「全部は救えねーぞ。何を守るか、だけをみつめるんだな」
弾かれたように山本は顔を上げた。真正面から見たリボーンの目は、自分と同じだと思った。
「生かしたいと思うヤツがいるなら、それを阻む人間を殺したいと思う。この世界はバランスで出来ている。てめーにとって獄寺の命は地球より重いが、反対の人間もいる。わかるな」
リボーンはそこまでいうとチャオと腰を上げた。
「ツナが心配しているぞ」
リボーンが消えた後も山本はしばらく獄寺の顔を見続けていた。去り際、肩に置かれた手の熱さが意外だった。彼にも体温があるんだと当たり前のことを思い出した。
ふぅと大きく呼吸をする。
獄寺の命を自分は救えた。ほんの僅かな差で、彼をこちら側にとどまらせることができた。今の自分ができる精一杯だった。
ならばもっと強くなればいい。
ボンゴレにオレがいることで、簡単に手出しをされないぐらい強くなればいい。
他に獄寺を守る方法があるのかもしれないけれど、今はそれぐらいしか思いつかない。

――誰もてめーに護ってもらおうなんざ、思ってねーんだよ。

山本の決意は獄寺に一笑されるだろう。
そこまで予想して山本は笑った。
体の力を抜くように笑った。
眠る獄寺の額に長いキスをして部屋を出た。
生き続けるためにしなければならないことはたくさんある。まずは自分の心の一部を預けた親友―綱吉に会うことから始めよう。

ドアが静かに閉じられた後、そのキスで獄寺が目覚めたことを山本はまだ知らない。






山本がごっくんを殴って歯を飛ばした甘酸っぱいシーンからの捏造がいつしかマフィア物に。
当時はうっすらごっくん強化月刊でした。 だい。 2007/12/30






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