Medicina e veleno



「ちょっ…獄寺!」
すぐ側で聞こえた叫び声は、予想通り山本のものだった。何故かこめかみの辺りが鈍く痛むのは気のせいだろうか。
「骸の奴、何で隼人って呼んでいるんだよ!」
スーツ姿の山本は、つかつかとテーブルに近づいて来ると、手にしていたシルバーのトレイを乱暴に置いた。質の良い茶器は金属音にも似た澄んだ音を立てたが、とりあえず割れなかったらしい――ただし零れた紅茶で、見るも無惨な様子だったが。
獄寺は肺の空気を全部吐き出すような溜め息をつくと、頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまった。本人はとてつもない疲労感を感じての行動だったが、慌てたのは山本の方だ。
「おっ、おいっ?獄寺大丈夫か?」
獄寺のすぐそばにしゃがみこむと、その顔を下から覗きこんだ。背中に掌を当てると、労るようにゆっくりとさする。その温かさに獄寺はもう一度溜め息をつくと、顔を上げて山本に向かって笑顔を見せた。
「ああ、大丈夫だ。ちょっと疲れただけだ」
少し窶れた風情で淡い笑顔を浮かべる獄寺に、山本の心臓が跳ねた。日に当たらなくなったせいか白い肌はまさしく透き通るようなものとなり、血管の色が鮮やかに浮かぶ唇は赤みを増したようだ。細めた翠色の瞳に、細い銀糸がパラリとかかる。
「そっか。良かった」
山本もにっこりと笑いかけると、獄寺の顔にかかった髪の毛をかきあげてやった。露になったその額に山本が唇を落とすと、獄寺は微かに身を引いた。
「ちょ…やまっ」
「黙って」
山本がそのまま顔を近づけて行くと、驚いた表情をしていた獄寺も、ゆっくりと目蓋を閉じた。
二人の唇が触れ合う直前。
「調子に乗るんじゃねーぞ、山本」
「は!?」
「小僧、もう少し黙っててくれりゃいいのに」
「おめーら、人がお茶しているときに暑苦しーぞ」
「リリリリボーンさんっ!?」
テーブルの反対側で優雅に足を組んでいるリボーンは、手にした白磁の湯呑みに口をつけた。負傷前と同じスピードで山本の顔を押さえつけた獄寺は、首まで真っ赤にしながら身体を引く。
「いいいつからそちらにっ!?」
「最初からだぞ。骸が一緒に茶を淹れたじゃねーか」
「ええええ!?」
獄寺はパニックのあまり普段ならリボーンに対して絶対にしない返事をしてしまった。しかもその事に気付きもしない。
「骸が、俺を見えないようにして幻覚を見せていたな」
「何で!?」
山本を押さえつけた姿勢のまま獄寺が問いかけると、リボーンは長い足をゆっくりと組み換えてニヤリと笑った。
「そんなの、面白いからに決まっているぞ」
「へ?」
驚きのあまり、獄寺は口を開けたまま固まってしまった。そんな彼の隣で、山本がやけにノンビリとした声を上げる。
「あれ?獄寺見えてなかったのか?小僧は最初からいたぜ」
一瞬の間を置いて、獄寺の罵声が温室に響き渡った。
「お前はリボーンさんがいるのを分かっていてあんなことをしようとしたのかよ!!」

その後、様々な刺激を嫌と言うほど受けた獄寺の神経は、どうやら許容量を越えてしまったらしく、三日間熱を出して寝込む羽目になった。その間、山本は獄寺から病室への出入り禁止を言い渡されてしまい、かなり凹んでいたとかいないとか。






この話はだいさんの「沈黙は死」後の話にあたります。何故か私が書く羽目に…(汗?
医療監修:主任、いつもありがとう!/つねみ






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