ミルキーはママの味。



ボンゴレ本部・ハルの部屋のドアをノックする。
黒い細身のスーツとお揃いのボルサリーノを身に纏い、赤い薔薇のブーケを持つ指にはボンゴレ雷の守護者のリングが光る。
「ランボくん?どうぞー」
「お久しぶりです、ハルさん。ご機嫌如何ですか?」
ハルは着替えの手を止めてランボを見つめた。
「準備は滞りなくすすんでます?」
「はひー。ランボ…くん?」
余りの変わりようにハルは言葉を失った。
ランボは薔薇のブーケを渡してハルの両頬に軽くキスをする。
「ゆっくり準備して下さいね。ここで待ってますから」
ランボは窓際の背の高い椅子を引いた。テーブルにボルサリーノを置きハルに微笑むランボはまるでハルの知らない、匂いたつ青年に成長していた。

ランボは小学校課程を日本でなんとかこなし、イタリアに戻った。というかツナに戻された。このまま日本にいてもリボーンの(を殺す)ことばかり考えてしまうから、という理由からだ。だからハルはランボとはそれ以来だったが、ここまで変わるとは夢にも思わなかった。

当初、ランボは全力で反抗したが、イタリアに帰ればリボーンに勝てるようになるからという説得&命令、というダブルコンボでしぶしぶ帰国した。
自分でも薄々感じていた。今のままではリボーンに追い付きはしないことを。中途半端で帰る自分はファミリーに笑われるんだろうな、とふてくされて帰ったランボを待っていたのは真逆の反応だった。
若くしてボンゴレの守護者になったランボは賞賛の眼差しを浴び、また常に最強ヒットマンを狙い続けていた結果(全敗だったとしても)同年代のファミリーの中でもずば抜けた身体能力を持つようになっていた。
回りの人々の対応で人は変わる。
狙う対象が近くにいないということは、ランボに自身の事を考えさせる時間と余裕を作った。泣き虫で短絡思考のランボは、背が伸びて、思慮深くなった。

後日、ツナは「ランボは蛹の時間が長かったんだよね」と頭を撫でたが、ランボは「脱皮したように」という日本語の形容を知らなかった。
よく解らないけれど流石ボンゴレ10代目、なんでもお見通しだと感心するランボに、「ちげーよ。10年バズーカでお前がこうなることはみんな知ってたよ」と獄寺が呑みながら話したのと自分がしきりと10年前にとばされるようになったのは、更に後日のお話。

「ランボくん変わったねぇ」
「ハルさんもキレイになりましたよ」
「気持ち悪いからハルって呼んで。敬語もナシね」
「si」
気を取り直してハルはブラックタイを手にした。生まれて初めて扱うも、簡単だとタカをくくっていたが意外とてこずった。
「あぁハル手伝わせてよ」
椅子に後ろ向きに座っていたランボは、ハルの不器用さに呆れて立ち上がった。ぐちゃぐちゃになったネクタイをシュルシュルとほどき、魔法のように小さなノットを作った。
「なんでドレスにしなかったの?」
「ドレスは花嫁までとっているんですー。今日はみんなブラックスーツって言うから合わせたんですよ」
「似合ってるよ。ハルは何を着てもかわいいね」
頬にキスをされるとこそばゆくなる。
ランボはハンガーから自分と同じ滑らかなブラックスーツのジャケットを取り、ハルに着せる。
完璧なレディーファーストっぷりにハルは寂しさを感じる。
「準備は大丈夫?」
くるんと回ってハルは忘れ物がないか確認した。
「だいじょぶ」
「じゃ行きますか」
ランボは片腕を差し出した。
「ランボくんはすっかり大人になっちゃったね」
ハルはポケットからキャンディーを取り出した。
「迎えに来てくれるって聞いたから用意してた…けど?」
ハルがランボを見上げると、さっきまでのクールさは雲霧散消。キラキラおめめで両手を差し出していた。
コロコロと転がるキャンディーの包みをくるくるっとほどき、一度に全部頬張った。
「イタリアにコレないんだよね。ハルありがとう!大好き!」
両頬にキスをして抱きつくランボからはミルキーの香りがした。懐かしい香りに変わっていないランボがいてくれて、ハルも嬉しくなって抱き返した。


そして、我に返ったハルが悲鳴を上げてランボを平手打ちしたのは蛇足なお話。






もしも10代目就任式があったらシリーズ。
ちょうどコレをアップした日にミルキーの販売停止が決まりました。
が、今はもう再開されています。一安心。/だい。






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