pecola nera!! (on the BLACK list) どうやら、オレは濡れた髪に弱いらしい。 半乾きのままのこいつの黒髪を一房手にとる。しっとりと重く、艶やかで奥にいけばいくほど湿り気があって、何かを彷彿させる隠微な濡れた髪。 そのまま鼻に寄せると、バスルームと同じアロマの匂いがする。 梳いては零れていく指通りを堪能する。 寝入るランボが起き出すことはない。 この香りは遠く昔の記憶を思い出させる。 軽い、花の香り。 あれはいつのことだったろう? 前世紀か、それともその前か。 オレがまだ人間だった頃。どこかの街で出会った女がいた。 しくじって半死半生のオレに恐れを抱かず手当をした。 しばらく世話になった最後には、オレを匿っていたことがバレて呆気なく殺された、名前も知らない女。 そう。黒髪でお人好しでバカみたいにお気楽で。 生まれ変わりなんて信じない。意味がない。 オレはコイツだから選んだんだし、コイツもオレだから。 「…いたい、いたいよ、なにすんだよ」 すやすや眠るランボの鼻を摘んで起こすと、むりやりキスをする。文句は片っ端から舌で嘗めとってやる。 「どしたの。またヤるの?」 「この淫乱」 「年中、発情しているお前に言われたくない」 オレの言葉はランボの口づけによって阻まれた。顔を挟んで、情の溢れる口づけを交わす。 「思ったんだけど、オレが物事を考えないのは理由があるんだ」 「オレが考えすぎるから、とか言うなよ」 「――おやすみ」 「オラ、起きろ。ナリはせっかく好みに育ったのに、オツムは追いつかねーな」 「少なくとも夜、眠れないぐらいの頭は不要だと思うぜ」 もう、黙れと言わんばかりにオレを抱きこむ。 「一緒に寝るには丁度いい季節も終わりに近いんだからさ」 確かに。汗ばむ季節はそこまで来ている。今は抱かれていても心地いいだけだ。 「リボーン。いい事を教えてやるよ」 「ん?」 「太陽の国(イタリア)では夜に考えても、無駄なんだ」 返事を聞く前にランボはすぅと寝入りやがった。返事まで聞けっていうの。詰めが甘いったらありゃしないぜ。 大体、悩んでいたんじゃなくて思い出を辿っていただけだ。ランボに抱かれていると、自分と二人分の香りに包まれる。確かに、これ以上考えても仕方ないな。オレがいてこいつがいて、そして、こいつがいてオレがいて。それだけで生きていく理由になりそうで、慌ててオレは思考をシャットダウンした。 暑くなる直前のちょいと肌寒い夜。 だい。2008/7/7 |