フォトグラフ



「こうして見ると…みんな格好良いよなあ」
レンゲを握り締めたまま綱吉がぽつりと零した声に、向かいに座る山本はチャーシューを中途半端に咥えたまま顔を上げ、その隣で容姿に似合わぬ豪快さで麺を啜っていた獄寺は手にしていたラーメン丼をテーブルに叩きつけた。
「いえっ!10代目には誰も敵いませんよっ!」
「あー、うんうん。有難う、獄寺君」
勢い余って手元にまで跳ねてきたスープの雫をさり気無く拭き取りながら綱吉はテーブルの上に置かれていた数枚の写真の無事を確認し、二次被害を防ぐべく目の高さに摘み上げてそこに写された一人ひとりの顔をまじまじと眺めた。
数日前、綱吉の誕生日を祝って催されたごく親しい者達だけのパーティーの席、神出鬼没で相変わらず群れる事を嫌っている筈の雲雀が何の気紛れか奇跡的に姿を見せた。守護者が一同に会する事など滅多になく(もしかしたら、初めてだったかもしれない)折角だからと誰かがカメラを持ち出し、パーティーの和やかな雰囲気がそのまま写し込まれたような写真が数枚、つい先刻、獄寺や山本と共に夜食のラーメンを食べていた綱吉の手元に届けられた。勿論、全員並んでにっこり、なんて集合写真は1枚もなかったが、代わるがわる撮り合った写真にはその場にいた全員が満遍なく写されており、雲雀までもが綱吉と並んで満面の笑顔を浮かべる獄寺の肩越しにヒバードに餌を与えている姿が収められていた。
「雲雀さんの顔って、ゆっくり眺めてる暇もないけどさ…こうして見るとやっぱ格好良いよね」
目元を柔らかく緩めた秀麗な横顔に、メイド達の間で早くも高値がつけられているらしい、とは、つい先刻厨房でラーメンを作っている時に山本が耳にした情報だった。
「何を言うんですかっ!10代目の方が…っ」
「ごくでらあ、騒ぐんなら箸置けよー」
ソファから腰を浮かせて興奮気味に声を荒げる獄寺の手から箸を取り上げ、中身が半分以上残った丼を避難させながら、落ち着けって、と背中をぽんぽんと叩く山本の姿と、リボーンと肩を並べてグラスを傾けているところを写真に収められたスーツ姿の山本を見比べて、思わず首を傾げながら綱吉は写真をめくった。コロネロと肩を組んで人懐っこい笑顔を浮かべている了平の精悍な相貌も、デザートプレートを差し出すメイドに向けられたランボの甘い笑顔も、見慣れている筈なのにうっかり目を奪われる程魅力的だったから、羨む隙さえもなく、女の子達が騒ぐ気持ちも判るなあ、などと妙に納得しながら写真をめくっていた…その手が、ふと止まった。
ばんっ!
「ど、どうしたツナ?」
「じゅ、10代目っ、すみません!お食事中に騒いだりして…」
突然テーブルを叩いた綱吉の行動に一瞬動きを止めた2人があたふたと声をかけるが、深く俯いたその表情は伺えず、真っ赤になった耳だけがふわふわと揺れる髪の間から見え隠れしていた…テーブルに叩きつけられた掌の下には、綱吉が先刻まで眺めていた写真が裏返しに置かれていたが、動揺した2人には気づく術もなかった。
「……ごめん…2人の所為じゃ、ないから…」
口元を掌で覆い切れぎれの言葉を吐き出しながら、綱吉は「お前が悪い、お前がっ!」と一瞬で脳裏に焼き付けられた姿に向かって罵倒の言葉を投げつけた。
カメラが自分の手元に回ってきた時、部屋の隅で秘書室長と立ち話をしている骸の姿が目の端を過ぎった。ちら、と視線を送ると、こちらに気づいた様子もなく話し続けていたから、悪戯心でこっそりレンズを向けてみたのだ。
(気づいて、いたのかよ…)
シャッターを押した後、何となく気恥ずかしくなってしまい、慌ててカメラを近くにいた誰かに押し付けて逃げるようにその場を離れてしまったから、自分がそんな写真を撮った事もすっかり忘れていたのだが…ばっちりしっかりカメラ目線で、口端を僅かに引き上げただけの笑みを浮かべた骸の姿は、綱吉の許容範囲を遥かに超えていた。
(ちっくしょー…何なんだよ、もう…)
あんな顔するなんて、知らなかった。
振り払っても浮かぶ残像にぐるぐると回る頭を抱えながら、さっさとネガごと没収しよう、と大きくため息を吐き出した。






2月7日はツナの日!…とか言いながら、誕生日ネタになりました(苦笑)
蛇足ですが、ごっくんは基本的に綺麗な食べ方をすると思うんですが(んでもって、三角食べが出来ない!っつー勝手妄想/爆)
もっさんの作ったものはマナーとか気にせずがっつり美味しく食べていただきたい!っつー願望。/わんこ






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