ピアス



「ただいまー」
「おう」
山本がアパートに帰ると、休みだった獄寺は既にシャワーを浴びた後らしく、すっかり寛いだ格好で出迎えた。
脱いだジャケットをソファの背もたれにかけてカフスを外しながらキッチンに向かうと、頭にタオルを被せたまま冷蔵庫の前にいた獄寺がミネラルウォーターのボトルを放り投げた。
「さんきゅー」
ひと口含んでカウンターに置くと、横をすり抜けようとする獄寺の腕を掴んで引き止め、タオルを取り去った。
「ちゃんと乾かせよ…あれ?ピアス開けたのか?」
「ああ、今日髪切ったついでに」
タオルを頭に被せてその上からぽんぽんと軽く叩くと、手持ち無沙汰になった獄寺が山本のネクタイに手をかけた。
濡れているから判りづらいが、確かに前髪とサイドの辺りがすっきりしたような気がする。
ネクタイが解かれ、襟元のボタンがひとつ外される。
まだ生乾きの髪を指先ですくい上げると、温まって赤く染まった耳朶が露わになった。
「へえ、似合ってるな」
湿った髪に指を差し込んで、その匂いに誘われるままに耳元に顔を寄せる……が。

ごつっ。

「駄目だ」
「…獄寺。オレ、まだ何も…」
カウンターに置かれていた飲みかけのペットボトルに阻まれてしまい、額を押さえながら上体を離すと、獄寺がにっこり笑って言い放った。

「雑菌が入るから、耳舐めるの禁止」

雑菌って、ヒトを何だと…とか。
耳が駄目なら他のトコなら良いのか?とか。
あれこれ言いたい事が駆け巡ったが、珍しく機嫌が良いらしい獄寺を怒らせる訳にはいかずため息に溶かし込んで吐き出すと、おあずけのご褒美、とばかりに、寛げられた喉元にキスが落とされた。






標的137表紙の10年後獄寺から妄想劇場(爆)
…ヘタレ山本ですみません(汗)/わんこ






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