獄寺隼人の殺し方  プランB



大規模なテロ行為が行われる可能性がある、という情報がボンゴレ総本部に届いた。パレルモ港に陸揚げされた貨物の中に大量の銃器が詰まれているというのだ。ボンゴレのシマであるシチリアの中でのあからさまな挑発行為。荷物の履歴と発送元であるロシアの税関も調査させ、荷物の出所とこれからの輸入予定を確認する。シチリアに入れられた銃器は島内にすぐに流され、行方がわからなくなっている。
ボンゴレ総本部。会議室では、綱吉他本部詰めのリングの守護者が揃って対策会議を開いていた。
「ふざけてるね。“幼児用の遊び道具”で輸入するなんて」
と綱吉は眉をひそめる。
「金でも握らせたのだろう」
リボーンはどこ吹く風でつまらなそうに報告書をチラ見する。
「水際で叩く?」
雲雀が無表情に提案する。
「根本的に叩かないとイタチごっこだろ」
獄寺が応えて、続ける。
「ロシアまで行ってきましょうか?」
「今の時点でそれをやっちゃうと、反対に報復されるのこっちだし」
綱吉は読み終えた報告書を読み終わり、ため息をつく。なんでこんなに毎日なにかしらあるんだろうなぁ。と窓の外を眺める。
「ボンゴレ流『ホテル・デッレ・パルメの集会』といくか?」
リボーンが艶やかな唇で物騒な単語を口にした。
『ホテル・デッレ・パルメの集会』を知らないマフィアはいない。
1957年、シチリアはパレルモの由緒ある「ホテル・デッレ・パルメ」で世界の麻薬密輸業の元締め16人が集合した会合が襲撃された事件だ。
「ボンゴレ流って?」
「麻薬密輸業者を集めてもしょうがねーし、かといって、他のファミリーを巻き込むのも、たいした意味のない小物の特攻に正面からノルのもボンゴレの面子がたたねぇ。とりあえずツナだけ囮になって迎え撃たねぇか?獄寺、おまえがキーパーソンになるんだ」
「キーパーソン?」
綱吉のみが囮になるという提案に反論しようとしていた獄寺は、話の矛先が自分に向かってきて出鼻を挫かれる。
「キコ・シモーネを知っているな。奴がアル・カポネの店で襲撃された時、いたらしいぞ。山本にプレートでも作ってもらえ」
「なになに?だれだれ?」
自分の名前が出てきて傍観していた山本が身を乗り出した。リボーンは山本に「後で獄寺に聞け」と返して、綱吉に向き直る。
「決行はいつにする?」
「最後の荷物が入港するのが来週の水曜日らしいから、その夜にする?」
「上出来だ。雲雀は担当者と連携して、荷物の動きを追え。俺は準備があるから席を外すぞ」
楽しそうにリボーンが退出する。残った面々はイタリアン・マフィアに詳しい獄寺に視線を集中する。
「10代目どこから説明しましょうか?」
「ナントカの集会との今度の作戦の関連性はリボーンに後で説明してもらうから、ピアノがどうのっての教えてくれる?」
獄寺は咳払いをして学校の先生よろしく口を開いた。
「キコ・シモーネとはピアニストで、二つ名で”シチリア音楽界の至宝”“マフィアに愛されたピアニスト”とも呼ばれています。シチリア生まれで、10代でシカゴに渡り、当時幅を効かせていたシチリア出身のラッキー・ルチアーノにもかわいがられていたそうです。フランク・シナトラが最初にお披露目したのも彼のピアノという話もあります。さっき、リボーンさんがおっしゃっていた「アル・カポネの店での襲撃」とは、彼の店でキコ・シモーネが演奏していたら、襲撃されて、幸いケガをしなかったそうですが、キコ・シモーネの友人たちから『ピアニストは撃つな』というプレートをもらったって有名な話があります。で、彼は『ホテル・デッレ・パルメの集会』にもたまたま居合わせたんですが、すぐアメリカに逃げました。晩年はここに戻ってタオルミナのホテルで毎晩弾いていたそうです」
「それと今度の話がどう繋がるんだろうねぇ」
一同は沈黙する。つまらなさそうに黙り込んでいた雲雀は、飛んできた自分の鳥に気付いて窓を開けた。
「ランチ、ランチ」
かわいい声でそれも日本語で歌う小鳥に、一同はあっさり思考を放棄した。
「とりあえず、午後リボーンから召集がかかると思うから、もう一度集まってください」
一人でも目上の者がいると敬語を使う、ドン・ボンゴレであった。






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