獄寺隼人の殺し方  プランB



かくして、ボンゴレ内部では狂騒のコスプレ大会が始まった。
表向きには「久しぶりにボンゴレ9代目と10代目が揃って会食をとる」という噂をカターニャの街に流した。表舞台から引退した9代目と用心深く中々表に出ることのない10代目が雁首を揃える、ということはマフィア業界をすぐに席巻した。問い合わせがすぐに入るも「9代目が久しぶりにあのレストランで、ということで僕はお付き合いなだけですよ。引退したっていってもまだまだ元気ですし」と綱吉はおとぼけを通した。
一方、輸入され続ける銃器類には少しだけ手を出して、規制をかけた。全く気付いていない風を装うのも向こう側の警戒を煽るだけだ。規制をかけた後、シチリアに入る(空・海・陸)全輸入品目をチェックし、敵の実態を暴く作業に入っていた。
獄寺と山本はミッションが決まった翌日から、当日の舞台となるレストランにそれぞれの役割で仕事を始めていた。一週間、彼等の業務はほぼ停止するがやむをえない。売られた喧嘩は内容を問わず高値で買うのがボンゴレ流儀だ。獄寺も「やるからには半端なことはできません」と日中もピアノの練習に余念はなく、山本もギャルソンとしてメニューを覚えるついでに厨房でレシピを教えてもらっていた。レストランの歴史のある調度品は全部似たような物に変えられ、粛々と当日が準備をすすめられていた。
やがてイーピンもシチリア島に到着し、(慣れるために)女装したランボとカターニャとパレルモ観光を楽しんだ。「後ろから見て、姉妹みたいにかわいらしかった」とは後日、作戦の成功を祝してボンゴレを訪れたボヴィーノのボスの弁。綱吉はにこやかに聞きながら心の中では「アナタはランボをずっと尾行していたんですかーーー!!」と叫んでいた。
同じく決行一週間前の夜、雲雀は黒いスーツにピンヘッドフォンをつけ一見キャビンカー、実はレストラン内部に仕掛けたカメラ映像をモニタリングしている移動司令室の前に立っていた。部下たちを付近の家屋に潜ませ、襲撃用のヘリと特殊部隊も、5分以内に到着する場所に待機させた。前髪が風にはためき始めると、思い出して当日の夜の風向きと強さを調べさせ、部下達の配置を変更することを考慮にいれる。風上になってしまっては、火薬の臭いでバレる可能性がある。考えられる憂いは全部断たなければならなかった。
レストランの場所は地中海を臨む小高い丘の上。周りを囲むものは何もなく麓から一本道があるだけで、襲ってください、と言わんばかりの立地だった。輸入された武器、ロシアでのファミリーの規模から全体の攻撃態勢を割り出し計画を立てたのは山本の仕事だったが、山本が中でギャルソンになるため、今夜は雲雀が指揮をとる。面倒くさがる雲雀にリボーンがこの仕事が終わったら一戦やらせてやるよ、と囁いた結果だ。誰と、と言っていないのがリボーンのズルイところで、コロネロかディーノ辺りにおしつけるのがみえみえだった。
コックと数人のスタッフ以外は客を含めて全員ボンゴレで固めた。ギャルソンの数人は堅気だったが、9代目にずいぶん世話になったと志願してきた。ボンゴレとしても、さすがに全員マフィオソーというのは信憑性に欠ける為、身の保障はできないがなるべく護ることを約束して申し出を受けた。

黒いリムジンがレストランの前に到着した。綱吉が9代目を労わるように手を差し出した。
カターニャ及び周辺の街にはロシアン・ギャングが集結している情報も入っている。
舞台も役者も揃った。
後は、銃が火を噴くのを待つだけだ。

夜も更け、そろそろ待つのが苦痛になってきた頃、暗闇に乗じてレストランの周囲を物騒な連中が囲み始めた。雲雀は舌なめずりをして通信機のスイッチを入れた。
「そろそろだよ」
全員の耳に仕込んだ通信機へ日本語で短く、盗聴されても対策がたてられないようにささやかに一言。一方通行の通信を受けたボンゴレたちは全員一様にそっと笑みを浮かべた。
そして、招かざる客たちがレストランの扉を開いた――。






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