万有引力



「知ってるよ、そんなの理想だなんて」
自分の前に差し出される、黒いスーツの大人達の手を一人一人握り締めながら、綱吉は呟いた。
「だったらいいじゃねーか。パーティの主催者だ」
リボーンはすました顔で、綱吉の傍らに立ち、彼の前に並ぶ客を囁きで教える。カターニャのホールで行われているチャリティ・ショーのレセプションパーティ。綱吉の誕生日パーティを開催する予定だったが主賓に死ぬ気で拒否され、このような形で開催された。挨拶を終えた後、あまり表舞台に出てこないボンゴレ10代目に挨拶を、と列ができた。
「初めまして。今回はありがとうございました」
「いいえ、お役に立てるなら本望です」
何度も手を振られ、痺れてきたところを解放された。
「でもさ、オレが選ばれたってことは、やれるかもしれないってことだろ」
「他人が選んだんじゃねーぞ。おまえがボンゴレを選んだんだ。まるっと全部お前の責任だ」
「でも、おまえは9代目の命令で来たんだろ?その後も付き合ってくれてるってんなら、オレを選んでくれたって考えて…。お久しぶりです。お元気でしたか?」
「10代目もお元気そうでなによりです」
見知った顔は同盟ファミリーのボスのジュニアで、自分と年が近いので勝手に親近感を抱いている。形式ではなく、心からの笑みで握手&ハグまでする。
「手の甲にキスだ。手袋の上からでいい」
目の前に差し出される白いシルクの手袋を下から受け取って、唇を寄せる。何度やっても馴れない恥ずかしい行為で、背後で元・家庭教師が笑っているようで綱吉は居心地が悪い。
「わかってるよ。でさ、なんで、お前ずっとオレんとこいるの」
「消えていーなら消えてやるぞ。…顔、強張ってんぞ。笑え」
体の大きな会社社長で、綱吉は生理的に好きになれなかった。獄寺の「10代目ファイトッス!」という幻聴を聞きながら、頬を上げて笑顔をつくる。お互い白い手袋をしているのがせめてもの救いだ。ようやく一息ついたところで、獄寺が炭酸水の入ったシャンパングラスを持ってくる。
「10代目、ご苦労様です」
喉を潤しながら会場を見渡すと、入口横で山本がさりげなく客のチェックをしていた。骸とランボもボンゴレの女性をそつなくエスコートしている。まぁランボはどちらかというとあやしてもらっているのだけれど。
みんな、それぞれ働いてるなぁと飲み終わったグラスを獄寺に返すと、本来の目的のシャンパンで満たしたシャンパングラスを傾けているリボーンと目が合った。
「で、おまえはなんでここにいんだっけ?」
「暇つぶしだ」
「へぇ。稀代のヒットマンが暇つぶし。ヒットを命令しないボスの下にいる方が暇じゃねーの?」
「あぶなっかしいからな」
「だったら、手伝えよ。色々頼んでるのに拒否ってんのは誰だよ」
「くだらねぇことばっかり言いやがるからだ。お願いだったら聞いてやらねーでもねーよ」
まるで痴話喧嘩のような遣り取りに獄寺は全力で笑いを抑えている。
綱吉が10代目を引き継いでからというもの、リボーンとヴァリアーの出番はまだ一度もない。リボーンは9代目から綱吉の家庭教師を依頼されただけなので、綱吉が10代目になった今、契約終了で、どこに行ってもいい筈なのにボンゴレを離れようとしない。時折、ふらりと旅に出てはいつの間にか帰ってくる。
「リボーン、お前はどうしたいんだよ。オレはずっとお前と一緒にいたいよ」
「俺だって…」
リボーンがうっかり零した本音に獄寺はたまらずに噴き出し、リボーンのとばっちりを恐れてすぐにその場を離れた。
「リボーンも自分の意思でいてくれてんだね。それが聞けただけでもオレは嬉しいよ」
「くだらねぇ、くだらねぇ」
「リボーン、オレはずっとみんなと一緒にいられたらって思う。みんなだけじゃない、ボンゴレに関わる人みんなが平和に生きていけたらって思う。新しく生まれてくる子供達が銃なんて持たない世の中になって欲しい。その為にはおまえも必要なんだ」
わかってるよね?と大人になっても変わらない栗色の大きな眸がリボーンを見上げる。安心しきった笑顔は未だ苦手だ。
「俺が出来るのは人殺しだけだぞ」
「そんなことないよ。この手はオレを育ててくれた。山本や、獄寺くんだって、みんな育ててくれた。もっともっとオレはリボーンに教わらなきゃいけないことがあるんだ」
リボーンは綱吉が自分の手を包むのをなすがままにしていた。手袋越しに伝わる綱吉の本気。
「だから、手伝ってよ。これからも、さ」
「わかった」
リボーンは、手を掴まれたまま綱吉の前に跪いた。
綱吉は展開が見えずに目をぱちくりとさせる。
「俺の命をお前に預けよう。これまでも、そして、これからも。お前が思うままに俺を使え」
綱吉の右手をとり、その甲に唇を寄せる。騎士が王に忠誠を誓うように。仰々しいリボーンの行為に綱吉は固まった。部屋の隅での行為に誰かが手を叩く。瞬く間に伝播し、部屋中が拍手に包まれる。耳まで赤くした綱吉はリボーンの策略にひっかかったことに気付いて手を引こうとするが、リボーンは下からニヤリと見上げて、綱吉の右手を握り直し、再度、唇を落とした。

ボンゴレ10代目の誕生日の翌日、それは見事な秋晴れだった。






10代目vsリボーン先生。
偉そうなのにちゃんとかしずくリボ先生が大好きです。
ケジメがあってね!決して茶化しているわけじゃないです。
だい。 2007/11/30






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