リ・スタート



 はねっ毛をボルサリーノに優雅に納め、ツバの下からはくるんと巻かれた細いもみあげが覗く。
 大人びた子供のような、青年のような―なんとも言えない魅力に抗えずに手を伸ばそうなら、いつのまにか拳銃をつきつけられるのがオチ。
 そんな男がガーメントを片手にボンゴレ本宅の山本の部屋に入ってきた。
「チャオっす」
「よぉ小僧。また今日はめかしこんでいるな」
「お前のスーツだ。10代目披露だからな」
「大袈裟だな」
 山本はリボーンからガーメントを預かり中身を改め、躊躇いなく着ている服を脱ぎ始める。
 リボーンは山本が存在すら気付かなかったワインセラーからトラミを選び、勝手に開けた。山本が鏡に向かってネクタイを整えていると、鏡の中のリボーンと目が合う。
「ん?」と首を傾げる山本に
「流石というか、ツナの見たては確かだな」
「小僧じゃなかったんだ」
「オレからはこれだ」
 一回り以上の年齢差を感じさせないぐらい似た背丈になった。
 リボーンは、自分の鋭い目線に全く動じない山本にキスをするぐらい近付く。ワインの薫りが山本の鼻をくすぐると同時にスーツの内ポケットに僅かな重さを感じた。山本の表情を読み、リボーンは口の端を上げた。「よく出来た」という教師の顔で。
「ツナが10代目になるってことはお前の職業も決まったって事だ」
「使えねーよ?」
「年柄年中バットを持ち歩くわけにはいかねーだろ」
――オレだっていつ死ぬかわからねーんだから)
「でも、またオレ達の前に現れてくれるんだろ?」
「ん?」
「ツナが10代目になったらどっか行くんだろ?11代目を探すのかどうか知らねーけど。でも、きっとツナに何かあったら現れてくれんだろ」
――本質はついているー
「あ、そか。もしかして今度からは一緒にやるのか?それも楽しそうだな」
「行くぞ」
 どこまで理解しているのかわからない山本との会話を打ち切り、グラスを置いた。
「リボーン」
 改まった声に振り向く。
「ありがとな。ここまで連れてきてくれて」
「結婚が人生のゴールじゃないように、ここからがお前のスタートだ」
「新しいツナのファミリーのな」
 山本は屈託なくリボーンの肩に手をまわした。
「よろしく、同僚」
「そのセリフは10年はえーぞ」
 ドアを開けると真っ青な大空が広がる庭が望める。式典の準備が滞りなく進んでいるようでメイド達の華やかな声が風に乗って二人の元に届いた。
「10代目がお待ちだ」
 ツナは自室でひとり静かにファミリーが揃うのを待っている。
 大空の元へ歩き出す二人の、艶やかなブラックイタリアンスーツとボルサリーノが陽光に煌めいた。






もしも、10代目就任式があったら。
記念すべきリボ小説一作目。/だい。






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