転寝する場所の選定



「あっさり見つかったなー。」
「流石、あの二人ほぼ同時に。」
「山本、お前気配消し忘れただろ。」
「ディーノさんこそ。お陰様で新しいセンサー、一つ交換ですよ。」
そんな暢気な会話をしているのは、キャバローネファミリーのボスと、ボンゴレファミリーの守護者の一人だ。何故か二人とも両手を挙げ、ボンゴレの屋敷の屋上から中庭を見下ろしている。
二人の目線の先には、獄寺と雲雀がいた。二人とも眉間に皺を寄せ、不機嫌な顔で屋上を見上げている。
「あんなに睨まなくてもいいだろうになー。俺、恭弥に会うの久しぶりなんだぜ。」
「日頃の行いじゃないっすか?」
「スモーキンボムも睨んでるぜ。」
「あれは怒っている顔じゃないっすよ。」
「へー。だったら何だ?」
「…呆れている、かな。」
「お前、目出度い。」
二人がそんな会話をしている間に、中庭の二人は移動し始めていた。雲雀は屋上に向かって発砲した拳銃を獄寺に返し、中庭から出ていった。残された獄寺は、拳銃を腰のホルスターに戻し、雲雀が置いていったマグカップを手に屋敷に戻っていく。
「お、恭弥が飲んでいたカップなのに。」
「獄寺は律儀ですからね。」
「へいへい。」
にっこりと笑いながらそうのたまわった山本に、ディーノは呆れるしかなかった。

ボンゴレファミリーとキャバローネファミリーは、同盟ファミリーの中でも親密な関係にある。それだけに連絡を取り合う事も多いのだが、何かにつけてボス自らボンゴレに出向くと言うのは、かなり珍しい。新しく就任した10代目ファミリーを、長く見守って来たせいか、何かと手助けしたくなるらしい。
その日も、使いの人間でも済む書類を、ボス自ら持って来たのだ。
「ディーノさん、わざわざすみません。ロマーリオさんも。」
「いいんだよ。俺が来たかったんだから。」
ボスである綱吉の執務室で、皮張りのソファに腰かけてディーノは笑った。コーヒーを運んできたメイドに笑顔で礼を言う。部下のロマーリオは苦笑するしかないという風情だ。
「さっきは済まなかったな、スモーキンボム。」
「…いえ。」
綱吉のデスクの横で書類を整えている獄寺は、短く答えただけだ。
「…お前さー。大人になって、つまんねーな。」
からかうようなディーノの言葉に、獄寺は片方の眉を跳ね上げた。
「昔だったら、すぐ突っ掛かってきて可愛かったのに。」
「…んだと?」
すぐに眉間に皺を寄せた獄寺に、ディーノは声を上げて笑った。
「その方がお前らしいぜ。」
からかわれた獄寺は、ムッとした顔を隠そうとせずに、書類を手に綱吉に一礼をした。そのまま黙って出ていこうとする。
「あ、そうだ。獄寺。聞きたいことがあったんだ。」
「…んだよ。」
扉を開けた所で振り返った獄寺は、出ていく気が満々だ。そんな獄寺の様子を微塵も気にせず、ディーノは笑顔で続けた。
「恭弥はどこにいると思う?」
「さっきまで中庭にいたぜ。」
「ああ、それは俺も知っているんだけどな。」
「獄寺君。」
綱吉に笑いながら声をかけられると、獄寺はため息をつきながら答えた。
「一番居そうだったのは中庭だったから、それ以外だと何ヵ所かある。」

ディーノは綱吉の部屋を出て、獄寺に教えられた場所を探したが、雲雀の姿はどこにもなかった。
「ったく、何処にいるんだか。」
「こうなると探しようがないな、ボス。」
「ああ、しょうがねーな。あまり人ん家をウロウロするのもまずいだろ。帰るか。」
「いいんですか?」
「また顔を出すさ。」
普通、来客が車で来た場合は、屋敷の執事に頼んで正面玄関に車を回してもらうのだが、勝手を知っているディーノは、いつも直接駐車場に向かう。
正面玄関から少し離れたそこは、大きな木に囲まれて木漏れ日が落ちていた。
遠目にも目立つ、ディーノの赤いフェラーリが一台だけ停まっている。ロマーリオはその向こうを見て眉を上げた。
「…ボス、私はボンゴレの執事に車を出すことを伝えて来ます。車の所で少し待っていて下さい。」
「へ?…あ、ああ。」
今までそんなことしていただろうかと首を捻りながら、ディーノはロマーリオを見送った。
気をとりなおして愛車に向かうと、その向こうに黒いものが横たわっているのが見える。
それが人間の足だと言うことに気付くと、ディーノは知らず笑顔を浮かべていた。

「…昼寝の邪魔しないでくれる?」
駐車場脇の大きなオリーブの根元で、雲雀はスーツ姿のまま寝転がっていた。
「芝生の上だからって、気にしなさすぎじゃないか、恭弥。」
閉じていた目を開けて、雲雀は胡散臭げにディーノを見上げる。
「スーツ、汚れるぞ。」
「別に僕は困らない。」
「だよなー。」
ディーノは笑顔のまま雲雀の傍らに座った。
「気持ち良さそうだな。」
そのまま芝生に肘をつくと、自分も雲雀の隣に寝転がる。
湿度の低い乾いた風が吹き二人の髪を揺らす。そのまま暫くはお互いに何も喋ることなく寝転がっていたが、先に沈黙に焦れたのは雲雀だった。
「いつも来るけど、余程暇なんだね。」
「そうでもないんだぜ。まあでも、ツナは可愛い弟分だからな。気になるのは確かだ。」
雲雀の眉間に、微かにしわが寄る。雲雀は面白くなさそうに目を閉じた。
「それに恭弥にも会いたいしな。」
雲雀は片方の眉をほんの少し上げた。それでも目を開けない雲雀に、身体を起こしたディーノは保護者の笑顔ではないそれを浮かべた。目を細めると、声を低くして囁く。
「本当はそっちが目的なんだぜ。」
「貴方、やっぱり馬鹿じゃないの?」
「そうかもな。」
起こしていた身体を傾けると、ディーノは雲雀に口付けた。
――シュッ
雲雀が手にしたトンファーはディーノの喉元の直前で止められていた。
「殺されたいの?」
「さてね。」
二人は素早く身体を起こすと、距離を開けて対峙する。ディーノの手には、愛用の鞭が握られていた。
「今度うちにも来いよ。」
「…殺りに?」
「お前ならフリーパスにしといてやるから。」
「貴方、やっぱり馬鹿だよね。」
暫く殺気を滲ませていたが、ふいに雲雀は踵を返すと、スタスタと歩き去ってしまった。
多少呆気にとられていたディーノに、後ろから声がかけられる。
「ボス、悪いけど時間です。」
「あ、ああ。ロマーリオか。」
「お邪魔でしたね。」
「まあいいさ。」
振り返ったディーノは、何故か楽しそうに笑っている。
――会いたかったんだって、勘違いするぜ、恭弥。
「また、会いに来てやるから。」






Dヒバを書いていたら、うっかり山本嫁自慢になってしまったという代物(爆。ボンゴレのツンデレ守護者コンビは書くのは難しいけど、結構好きです。/つねみ。






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