al ladro!! (my heart was stolen already!!)



寒いのに寒くない。
海の風はいつもどこか柔らかさを含んでいる。
体のあちこちをすりぬけていく濃い潮の匂いを胸まで吸い込んでいたら、陽が陰った。
片目を開けなくてもわかる。片手を伸ばすと起き上がるように引っ張られる反動を力を抜いて外し、代わりに引き込んだ。
胸に落ちてくるのはリボーンの細い体。
「いいご身分だな」
「休業中なんでね」
びゅうと風が吹いてリボーンのシャツがまくれたから抑えたけど、ボルサリーノはころころと転がっていった。
「お前こそどうした?」
「開店休業中」
「ボンゴレがまた仕事くんねーのか?」
答えは無く、リボーンは隣に寝転がった。目を閉じると柔らかな日差しと同じぐらい暖かさを含んだ風が肌を優しく撫でていく。リボーンにしがみつくように抱き込んでみた。触れる頬は冷たかった。
「――おかえり」
「おせぇ」
「悪い」
神出鬼没だからうっかり忘れていたが、こいつ日本に行ってたんだ。
「ボンゴレ達は元気だった?」
「ああ。お前にも逢いたがっていたぞ」
「光栄だ」
日本にも拠点を移したボンゴレ達と離れて俺はイタリアで過ごしていた。ボンゴレの守護者とはいえホームはボヴィーノだ。
「ランボ」
いつしかアホ牛と呼ばれなくなっていた。少しだけ寂しく思いながらん?と目を開けると視界一杯に白とピンクの花びらをたっぷり咲かせた桜が広がった。見ている間にも何枚もの花びらが風にのってあちこちへと舞っていく。
「土産だ」
「すげぇな!わざわざ日本から盗んできたか?」
「花盗人は罪じゃないぞ」
「マジで?」
「――持っていけ」
ボスの病室に飾ったら喜ぶだろうな、と考えたのはリボーンにはお見通しだった。立ち上がって砂を払った後、海辺の白い建物にリボーンを誘った。
「たまには一緒に行かないか?」
「死期を早めたくねーぞ」
「じゃ、車で待ってろよ。今夜の夕食はもう用意してんだ」
「ランボ」
風でこれ以上花びらが飛ばないように、両腕でガードしたまま振り返るとリボーンがキスをしてきた。
「早く帰ってこい」
念押しをして、近くに転がっていたボルサリーノを拾って被り直して病院の駐車場へと歩き出した。
「十分だ!」
後ろ手でチャオと返したリボーンを見送ると病室へと走った。香りはないけれど春の訪れを教えてくれる白い花びら。病室の窓を開けるときっと綺麗な花吹雪だ。ボスもきっと気に入るだろうけど、やっぱりリボーンからって云わない方がいいのかもしれない。何故だかボスはリボーンの話をすると苦い物を食べたような顔をする。それを想像して俺は可笑しくなった。でも、云わなくてもきっとバレるんだろうな。
一際暖かい風が海から吹いてきて、小さな花吹雪を作った。

もうすぐ本当の春が来る――。






まだ寒い、春の日のお話でした。ちなみにリボ先生はちゃんと花屋で大量に買いました。そのうちの数本だけを持ってきたのです。残りは、ねぇ(にっこり)。 4月頭に一週間仕事サボって、平日から鎌倉行って江ノ島の海岸でぼんやりすごしていました。 鶴岡八幡宮の参道のお花屋さんで、桜の枝を売っていて、それから話が浮かんだのでした。 だい。2008/4/10






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