公園のブランコ



 キーコ、キーコと錆びた鉄の鎖の揺れる音がした。雲雀恭弥はフェンスの上からひょいと公園の中を覗くと、人影がないのにブランコが不規則に揺れていた。不審に思ってフェンスに一度足をつき、植え込みを飛び越えると、ブランコの横木にようやく手が届くかどうかの牛柄の服を着た幼児が一生懸命、両手を伸ばしていた。小さな手に横木はまだ大きいらしく、ちょっと掴んでは反動で顔にぶつかっていた。そのたんびにビエーと泣き出し、泣き飽きたら性懲りもなくまた手を伸ばして…と繰り返していた。
「ブランコ、乗りたいの?」
 おでこに強かぶつけて泣きかけた幼児に話しかけると、泣くのと横木の当たった跡で顔を赤くした幼児が振り返った。涙が溢れる目を期待に見開き雲雀を見上げてきた。
「オレっち、ランボさん!!」
 雲雀は黙って、ランボを両手で抱き上げて横木に座らせた。ランボはすぐに左右の鎖を小さな手で掴み見よう見まねで体を揺らした。がすぐにべちょっと砂の上に落ちた。
「うううぅぅ。いたぁぃぃぃぃ。うわぁぁぁぁぁん!!」
 ランボはひとしきり泣いて、顔を赤くふくらませたまま雲雀を振り返った。
「また、乗せて?」
 雲雀はランボを抱き上げた。ランボは再び立ち漕ぎに挑戦して滑り落ちた。ひとしきり泣いて、そしてまた雲雀にねだり、雲雀はブランコにランボを乗せた。
 五、六回繰り返した時、雲雀はゆらりとトンファーを構えた。ランボは鬼気迫るものを感じて、ピタと涙を止めた。相手が本気で怒ったんだと感覚で知る。唇を噛みしめて、大きな目を見開いて雲雀を必死で見上げる。雲雀はトンファーを構えると一跳び。ブランコの鎖が下がる横棒に立つと、ガンガンと殴ってへこませた。怒られることを予想していたランボはただ驚いて雲雀を見上げていた。雲雀の肩の向こう、晴れ渡った空に太陽がきらりと輝いた。黒い学ランが宙を舞い、ランボの横にふわりと降りてきた。
「ヒバリ、ヒバリ」
 黄色い小鳥が飛んできて、雲雀の肩に止まった。
「おまえ、ヒバリって言うのか?」
「一人で乗れるでしょ」
 そう言われて雲雀からブランコに目を移すと、上部をへこまされたブランコはランボが楽に乗れるぐらいの高さになっていた。よじ登って立ち漕ぎに挑戦して落ちるも、高さがないので痛くない。なによりひとりでブランコに乗れる。それが嬉しくて何度も繰り返してランボはようやく立ち漕ぎができるようになっていた。調子に乗ってぐいんぐいんと漕いでいくと、せかいは上下に揺れて、風が耳のそばをびゅんびゅんと通っていった。初めての冒険が成功した瞬間。視界が空だけになった時、ランボは思わず手を離した。小さな体が反動で飛ぶ。
「わーーーーー!!」
 宙を舞い、そしてーーポスンと雲雀の腕の中に着地した。
「見た見た?ランボさん、すごいもんね!空を飛んだもんね!」
 興奮するランボにヒバリはうんと頷いた。
「ランボ、スゴイ、ランボ、スゴイ」
 そして、さっきまで泣いていたもじゃもじゃの頭に、ヒバードがすとんと着地した。






公園のブランコ from 「空を見上げる場所での10のお題」

あの人が小動物を好きだといいなぁ、優しいといいなぁ、という願いを込めたお話。タイトルと人選のミスマッチがお気に入りです。 だい。






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