トワ/±0 「や、山本…?」 懐かしい呼び方に全てを察して振り返ると、キッチンカウンターから見渡せるリビングのソファの上に呆然とした表情で座り込んでいる、懐かしい風貌の十七歳の獄寺隼人がいた。 やっぱり今日だったか、と安堵しつつ、エプロンを外しながら「今来たばかり?」と問うと、こくりと無言で大きく頷くから、カウンターの上に準備しておいたキッチンタイマーのスイッチを入れて、ソファにゆっくり近づいた。 「ええと…状況は、判ってるよな?」 「ああ……本当に、山本なんだ…よな?」 自分の十年後の誕生日を二人で迎えているこの状況を理解しつつも、それが信じきれないのか伺うように問いを重ねてくる。安心させるようにふわりと頬を緩めて、見上げる獄寺の頬に手を伸ばした。 「本物だって、どうしたら信じてくれる?」 懇願するような問いかけに、獄寺は俯いた。髪の間から見え隠れする耳朶が赤く染まっているのに気付いて、そろりと髪をすいて指先で耳朶をひと撫ですると、まだ幼さの残る華奢な肩が大きく震えた。 十年前、十七歳の誕生日を祝っている時、ランボの十年バズーカに巻き込まれて五分間だけ入れ替わった十七歳と二十七歳の獄寺隼人。 十七歳の自分の元にやってきた二十七歳の獄寺は、口の悪さは相変わらずだったけど想像していたよりもずっと綺麗で、粗雑な言動なのに自分に見せる笑顔と触れてくる指先は優しくて…お互いこの先どうなるか、なんて事はやっぱり判らないままでも、十年後の獄寺がこんなに幸せそうなら、きっと自分も幸せなのだと思えたのだ。 ソファに腰を下ろし、座り込む獄寺を挟み込むように片足を乗り上げると、赤みの消えない顔で精一杯睨みつけてくる獄寺の体を引き寄せた。 この頃の獄寺が何を思い、自分達の未来をどう考えていたのか、正直今でも判っていない。この偶然与えられた五分間に、何を見出して十年前へと帰っていくのか…先を示唆するような事は何も言えないけれど、それでもこうして二人でいる現実があるという事を少しでも感じて欲しかった。 腕の中で戸惑うように体を強張らせている獄寺の額にそっと額を寄せて促すように髪をすくと、今も変わらない翠の瞳が山本を見つめ返した。表情が掴みづらい程の至近距離で、こちらに来て初めて安心したように獄寺が笑ったのが判った。 ほっとして抱きしめる腕に力を込めようとした時、カウンターの上でキッチンタイマーが機械的な音を立て始めた。 「そろそろ、だな」 名残惜しげにもう一度両手で頬を包み込むと、これぐらいは良いよな、と自分で自分を納得させつつ、 「誕生日おめでとう」 いつもキツく寄せられている眉間に、慰撫するような口付けを一つ落としたその瞬間、周囲が真っ白い煙に包まれた。 煙が消えて、腕の中に戻ってきた大切な重みを確認するように力を込めると、甘えるように肩口に額を押し付けるその耳元に唇を寄せた。 「おかえり」 ええと、10年前と10年後がぐるぐる巡って繋がってる感?を汲み取っていただければ…(汗) 是非とも、椿屋四重奏の「トワ」も併せてお聴き下さいっ!(爆)/わんこ |