プラネタリウム



宵闇が始まる頃、夜空を眺める為にブランケットを敷くカップルやファミリーがあちこちに見られた。ご多分に漏れずウチもそうなんだけど、ちょっと様子が違う。
「おら、もちょっとそっちに詰めやがれ、コラ」
紫に染まる夕闇にも鮮やかな、南には珍しいぐらいの金色をふりまいてコロネロが二人でいっぱいのスペース、オレの左側に寝転がろうとしていた。
「テメェにこんな上等なもん(ブランケット)は勿体ねぇ。その辺(草っぱら)で充分だろ」
オレを挟んで右からはリボーンが応酬する。ついでに、オレに腕枕をしていたリボーンの腕がコロネロの顔に伸びた。ほんっとにこいつらは毎回飽きずにじゃれ合うね。
「なんで来たの?」
「おまえまでそんなこと言うのか?コラ」
「そうじゃなくて、どうやってここまで来たの?ってこと」
「そりゃあ、ペルセウス流星群を見る絶好のポイントじゃねぇか、コラ」
「ラルは?」
「家光のヤローが国外に仕事にやりやがった」
仕事熱心だもんねー。可哀想に。年に一度の天体ショーということで、数日前からテレビではこぞって取り上げていた。おまけに今日は8/10。そりゃ盛り上がるってもんだよな。
「おい、ストーカー」
「誰がストーカーだ、誰が、コラ」
「土産次第では許可してやっから出しやがれ」
リボーンは片肘をついて、反対の手でオレを抱き込んでいる。その前にコロネロは持ってきた袋をひっくり返した。フレッシュチーズや生ハムの塊や簡単なラベルのワインが惜しみなく転がる。
「文句はねぇだろ。コラ」
いつの間にか取り出したサバイバルナイフでもも肉を薄くスライスして、オレに差し出す。ブレードが透けるぐらい薄いのに脂のねっとりした匂いがしたから口を開けて待つ。と、リボーンの指がつまみ上げて、口の中に入れてくれた。溶けるそれは塩味と脂が野蛮なほどおいしかった。
「やばい。すげぇうまい」
「だろ?」
リボーンの腕も気持ちいいんだけど、食い気には勝てません。オレも起き上がって持ってきたバゲットをコロネロに渡すと、さくさくと切って、その上にハムとオリーブとバジルを置いていった。リボーンにワインを差し出すと、仕方なく起き上がってワインを開けにかかる。グラスなんて上等なもんはないから回し呑みで。パンとチーズと生ハムとワインというシンプルで豪華な食事をしていたら、周囲から歓声が上がった。気付くとすっかり紫の空は消え去り、星が瞬く夜空になっていて、そして今夜のメインイベントの流星群が始まった。
「流星群ってさ、毎年あるけど、流れ星の集団ってわけじゃないんだろ?」
背中からもたれかかるように抱きついているリボーンに聞いた。
「宇宙の塵の中を地球が通過するときに、大気と衝突する時に見える現象だ」
「じゃ、アレは燃えかすなんだ」
「それじゃあいつらがかわいそうだぜ。地球に焦がれて燃え尽きた星達ってことにしとけ、コラ」
膝の上に寝転がってるコロネロを思わず見下ろすとウィンクを寄越した。
オレ達にこんな様子じゃラルにはもっとロマンチックな事を言っているんだろう。ほんとに。普通の女の子だったら一発なのにね。リボーンは空を見ろ、とばかりに顎に手をかけて上向かせる。いくつもいくつも流れ星が白い筋を残して消えていく。子供達の歓声の中、夜に紛れてリボーンが耳を嘗めてきた。
「ん」
くすぐったくて肩をすくめる。
「願い事を忘れているぞ」
「アンタは?」
「自分で叶える」
「アンタらしいね」
リボーンがどんな願いを持っているかは知らないけれど、マフィアのオレ達は明日にでも死ぬかもしれない運命だから未来を願うより、刹那を楽しむことを優先してしまう。それを願いと言っていいなら、リボーンが傍にいること。コロネロが一緒にいること。ボスが、ツナが、オレの知っている人がみんなそれぞれの人生を謳歌してくれればそれでいい。昔、フゥ太に言われたことを思い出す。
『だめだよランボ。もっと目の前にいる人のことを楽しませることを考えなきゃ』
まずは自分が楽しいことが前提じゃないとと思い込んでいたからフゥ太の言葉は理解できなかった。
「おまえの願いは?」
「いつまでもアンタ達が傍にいてくれればいい。それだけで充分楽しいよ」
「こいつはいらねぇだろ」
「ランボは優しいなぁ、コラ」
「今すぐアレ(流星群)の中につっこんでやる」
とたんに始まる口争いも、周りの歓声や乾杯の声に消されてしまうけど煩くてかなわない。背中の男と膝上の男二人を抱えてオレは両方にキスをした。片方は唇に、片方は頭に。
「前言撤回。ちょっとだけ静かに空を見ようぜ」
了解、とばかりにリボーンはオレを抱いたまま後ろに倒れた。体をずらして横抱きされると視界は全部星空。中天からシャワーのように星が降り注ぐ。プラネタリウムみたいだと思うぐらい完璧だった。年齢不詳のこいつら(アルコバレーノ達)が何回見たかは知らないけれど、今この瞬間だけは一緒に見ている、ということに鳥肌が立つぐらい幸せを感じた。
自然と流れた涙を、リボーンがペロリと嘗めた。






プラネタリウム from 「空を見上げる場所での10のお題」

プラネタリウムでのネタを書いていたのですが、情景的に寒くなってきたので流星群にしました。大人リボランはなんだか落ち着いてしまっているので(20代で落ち着くなんて面白くない)、コロネロ登場で。彼の手みやげは産地直送です。気取らない素朴で野蛮な食事は憧れです。 だい。






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