キスの続き 獄寺がふと気がつくと、リボーンの姿は何処にもなかった。長い廊下を見渡しても気配すらない…もっとも普段から気配のない男ではあるが。 獄寺は顔を赤くしたまま溜め息をついた。先程、たまたま廊下で会ったリボーンは、明らかに普段の彼とは雰囲気が違っていた。深い闇のような黒い瞳は何処か妖しく、陶器のような白皙の肌はうっすらと血の色が透けていた。アルコールの香りと共に赤い唇が言葉を発すると、何故か動けなくなり… 獄寺は耳まで赤くなり、口元を右手で覆った。 「…っんだよ、一体」 それなりにキスの経験などあるつもりだったが、脳髄まで痺れるようなそれは初めてだった。 経験の差ってことかよ。 獄寺は改めて、あらゆる意味でリボーンには敵わないのだと悟った。 ――コツ 近くで聞こえた足音に獄寺はビクリと顔を上げる。そこには驚いた表情をした山本が立っていた。 赤い顔をして座り込んでいる獄寺を見て苦笑いを浮かべる。獄寺は悪態の一つでも吐こうとして止めた――何故なら山本もほんの少しだけだが、顔が赤かったからだ。 お互いに何となく事情がわかってしまった。 「…手伝え」 獄寺は座り込んだ姿勢のまま、周りの書類を集め始めた。山本は黙ってそれに手を貸す。 山本が集め終わった書類を差し出したが、獄寺は受け取ろうとしない。顔を上げると、じっと見詰める獄寺の目線とぶつかった。普段は硬質な印象の瞳が、今はその感情を表すように危うく揺れている。山本が手を伸ばすと、ビクリと身体を震わせ、その手に頬をすり寄せた。山本が耳の後ろを撫でると、その手首に舌を伸ばす。 「…っおい」 山本が反応したのを嬉しそうに眺め、更に舌を這わせる。 獄寺の耳の穴を指で擽ると、堪えきれない声が漏れた。 「獄寺、どうしたい?」 指で弄っていない反対側の耳に、声を吹き込むように囁く。 「…手伝えって…言ったじゃ、ねーか」 獄寺の言葉に、山本は吐息を吹き込んで答える。 「了解」 山本は獄寺の耳の後ろにキスを落とした。 獄寺の部屋に入り、扉が閉まるまではまだ理性があった。 しかし、閉まる音を聞いた瞬間、手にしていた書類は再び床へとばら蒔かれ、お互いのスーツの上着もすぐに後を追った。 獄寺は山本の首に両腕をかけて引き寄せると、噛みつくようにキスをする。山本も獄寺の腰を引き寄せると、すぐにキスは濃厚なものに変わった。舌を絡め合う濡れた音が聴覚を犯していくと獄寺の膝から力が抜けてしまい、山本の首にかけた手はとっくにすがるだけのものになっていた。 「…っく…あ」 山本は左手で獄寺の腰を支えると、右手はその下の形の良い尻に撫でる。感触を楽しむように揉みしだくと、キスの合間に声が漏れた。唇を離して唾液に濡れたそれを舐めると、獄寺は膝の力が抜け山本の肩に頭を凭れてしまった。首筋に当たる獄寺の熱い吐息に、山本はどうしようもなく感じる。 「…なぁ、どうだった?」 そう問いかけながら山本の指は獄寺の良く締まった双丘を相変わらず撫でまわす。悪戯をするように片方を鷲掴みにすると、獄寺の身体は大袈裟に跳ねた。 「ああっ…おま…なに、言って…」 「まだまだ敵わねーよなぁ」 獄寺の口元から首筋に零れ落ちている唾液を、辿るように首筋を舐める。 「少しは、腰を抜かしてくれている?」 力などとっくに抜けているのに、山本は意地悪に聞いてくる。獄寺の目尻から、快楽による涙が一つ滑り落ちた。 「ば…っかやろ…っ」 獄寺は首に回した両手に力を込め、山本の耳に噛みついた。 「いい加減にしねーと、オレが突っ込むぞ」 山本はゾクリと背筋を震わせた。とっくに反応している自分自身を獄寺に押し付け、その白い首筋を噛む。 「…覚悟しろよ」 山本は獄寺を両手で抱き上げると、寝室の奥にあるバスルームへと向かった。その間も舌を突きだし絡め合うことを繰り返す。お互いの口元は既に唾液でべたべたに濡れていた。 入り口を開け放ったまま中に入ると、山本は広い大理石の洗面台に獄寺を座らせる。獄寺の顔を両手で挟み、鼻を擦り合わせながら碧色の瞳を覗き込むと、明らかに物足りない表情をしている。散々合わせた唇は誘うように赤く濡れ、半開きの隙間からは更に赤 い舌が見え、山本は腐りかけの石榴みたいだと思った。 山本はそれを思い切り貪りたい衝動を抑え、身体を離すと床に膝をついた。不満そうな獄寺を挑発的に見上げると、膝にキスを落として獄寺の右の革靴に手をかけた。丁寧に脱がせてバスルームの外に放ると、履いている靴下もゆっくりと脱がせる。現れた白い踝にキスを一つ、踵にもキスをすると、獄寺は逃げるように足を引いた。山本はそれを許さず、靴下を取り去ると両手で足首から撫で下ろし、最後に足指に唇を寄せた。 「…あぁ…っま、もと…」 指を突っ張り痙攣する足で逃げを打とうとするのを、足首を掴んで止める。 「やっ…あん…やめっ」 こんなところをしつこく嬲られたことがないせいか、獄寺は顔を赤くして身を捩っている。半開きの口元からは、唾液が零れ落ちて、白いシャツを汚す。 今まで獄寺が、これ程素直に感じることはなかったかもなー。 山本は獄寺が止めどなく発するあえぎ声に、自分自身も熱くしていった。 しつこく指だけを丁寧に舐めていると、突然獄寺は山本の肩に左足をのせた。薬指に噛みついて獄寺を見上げると、獄寺はボンヤリとした目付きで唇を歪ませていた。 「そっちだけか?」 …あれ?なんか雰囲気、変わってねーか? 挑発するように細めた獄寺の瞳は、どこか焦点が合っていない。赤い舌を出すと、見せつけるように唇を舐める。決定的な快楽を与えられずに散々焦らされ続けた獄寺は、どうやら今までとは違うスイッチが入ったらしい。 山本が指の股を舐めると、大きな嬌声を上げる。 「ちゃんと言って、獄寺」 「あぁん…はやく…ぬがせろ」 赤い唇を白い指がなぞる。 「…おまえが、ぜんぜん、たりねー」 山本が踵に噛みつくと、獄寺は再び大きな声を上げた。 ガラス張りのシャワーブースの壁に獄寺を押し付け、背後から胸元に手を這わせる。無理矢理後ろを向かせてキスをしながら、山本はシャツ越しに胸の飾りをきつく摘まんだ。履いていたスラックスは下着ごと洗面台の前で脱がせたが、山本はシャツを着せたままシャワーの下に獄寺を連れ込んでいた。濡れたシャツはぴったりと身体に添い、白い肌が透けて見える。 「…ぅんっ…や、だ…やまもっ…」 もう片方の手は、獄寺自身を握りしめ、ガラスに擦り付けるように愛撫を繰り返す。獄寺の足元のガラスは、白濁したモノで汚れていた。 「なに?」 唇を離すと、山本は頬を舐めながら問いかける。 「やっ…も…」 「何で?獄寺気持ち良さそーじゃん。」 その表情を楽しむように眺めながら、山本は獄寺自身を強く擦った。獄寺はまた新たにガラスを汚して果てる。 「はぁっ…ん」 力が抜けてずり落ちてしまいそうな獄寺を、山本は腕を回して抱き止めた。 「気持ち良いだろ?」 その問いかけに、獄寺は緩く頭を振った。 「…ちがっ」 獄寺はゆっくりと振り返り、赤い唇を吊り上げて笑った。 「これが、欲しい」 ガラスに凭れてしゃがみこむと、目の前にある山本自身に触れる。普段は滅多に自分から触れることをしないのに、獄寺はそのまま唇を寄せた。 既に反応をしているソレにキスをすると、舌で先端をチロチロと舐める。 「…ああっ」 山本のため息のような声を聞くと楽しそうに顔を上げた。そして視線を絡めたまま、大きく口を開き銜え込んでしまう。温かい感触に包まれ、思わず弾けそうになるのを、山本はかろうじて堪えた。 獄寺の口では全部を収められず、根元に添えた手でも愛撫を加える。二つの袋をやわやわと揉まれると、内股に力が入るのがわかる。獄寺は一度口を開き指に唾液を塗りつけると、再び山本をくわえ込む。そして唾液にまみれた指を腰にまわすと、そのまま指を滑らせ双丘の間を探った。固い秘所を擽るように撫で、獄寺の細い指は悪戯をするように少しだけ中に押し込まれた。 その瞬間、山本は強い射精感に襲われた。獄寺の後頭部を掴み、自分の腰に押し付ける。急に喉の奥まで突っ込まれて獄寺は苦しそうに顔を歪めたが、口をすぼめて強く吸った。 「くっ…ご、くでら、もう」 山本の切羽詰まった声に目を細めると、獄寺は射精を促すように舌を強く絡める。 山本は数回腰を大きく前後させ、獄寺の口内に全てを吐き出した。 山本は後ろの壁に凭れながら、足下に座り込んでいる獄寺を見下ろした。獄寺は口の回りを手の甲で拭い、それを舌で舐めて見せる。 「お前も寄越せよ。」 笑いながら見上げてくる獄寺と目線を絡ませ、山本はニヤリと笑った。両手を掴んで引き上げると、そのまま首にかけさせる。獄寺が山本を引き寄せると同時に、山本は獄寺の右足を持ち上げた。右手で最奥を探ると、今日初めて触れたとは思えない程柔らかい。 「獄寺、ひょっとしてさっき自分で弄っていた?」 そう囁いてから耳の穴に舌を入れると、獄寺は大きく身体を震わせた。同時にその最奥も動き始める。既に柔らかいそこに、山本はいきなり指を三本突き入れた。 「ふあっ…」 「痛くないだろ。だってもう楽勝で入るぜ」 耳の穴に舌を入れながら、右手も抜き差しをすると、首に回されていた獄寺の腕がきつくなった。 「やっ…も、もう…やだ…」 「何?獄寺」 耳から唇を離すと、上気して赤く染まった獄寺の顔を眺めた。 「おま…のを、寄越せって…」 焦らされ過ぎて零れ落ちた涙を、山本は唇で優しく吸い取った。 「ん…俺も獄寺が欲しい」 山本は右手を獄寺から抜くと、一気に張りつめた自分自身を突き入れた。 「ああっ!」 獄寺の背中が弓なりに反らされ、山本は無防備に差し出された白い喉を食む。 「ふぁっ…ああんっ…やまっ…ああっ」 「…っく、さいこー」 片足を上げたまま獄寺を壁に押し付け、山本はその締め付けを堪能しながら何度も突き上げる。差し出された喉から胸に舌を這わせると、背中に爪を立てられた。 「獄寺も…いい?」 胸の飾りを甘噛みしながら問いかけたが、もう言葉として理解出来ないようだ。山本は楽しそうに笑うと、獄寺の震える左足に手をかけた。 「もっと奥までくれてやるよ」 ――隼人。 片足だけ床についていた左足を持ち上げると、山本は獄寺の両足を抱え込んだ。 自分の体重もかかり深く貫かれて、獄寺は悲鳴のような矯声を上げる。背中に立てられた爪が、かきむしるように傷を残した。 「やあぁっ…ああっ…たけ…しっ」 「…っく…いく…ぞ」 なす術もなく揺さぶられている獄寺の身体を抱え、山本は二人で頂点を迎えるために激しく責める。 一段と高い悲鳴を上げた獄寺が薄くなった精液を放つと同時に、山本も獄寺の最奥に爆発するような勢いで達していた。 気絶した獄寺を腕に納め、山本はバスタブに温い湯を張り浸かっていた。獄寺の白い肌は薄く血の色を浮かべ、所々に赤いうっ血の跡がある。後始末をする間は勿論、抱えて湯に浸かっても目を覚ます気配はなかった。獄寺が沈まないように気を配りながら、山本は頭を掻いた。無理をさせるつもりはなかったが、身体能力のある獄寺がこんな状態になるのは珍しい。 「…ま、すげー色っぽかったからいいか。」 おそらく獄寺が目が覚ましたら、盛大に拗ねてしばらくベッドに潜り込んでしまうだろう。 山本は笑いながらため息をつくと、獄寺の赤く染まった頬を撫でて軽くキスをした。 「ぬばたまの夜」「CONtRACT-契約-」の購入特典としてアップしていたものでした。 最初ペーパー用に書いていたはずでしたが、とてもペーパーには載せられない代物になってしまったのもいい思い出(?)です。/つねみ |