ある日のエスと山本の会話。


「で、ヤマモトのとこってサイズはどのぐらいなの?」
盗聴用の機械のメンテナンスがてら、エスのラボにてお茶を貰っていた。ジャパニーズ イズクールと何かと贔屓めいたことをしてもらっている。人と話しながらも彼の手元のスパナが止まることはない。
「は?」
「こないだの」
エスの話の意味がやっとわかった。こないだ、たまたま立ち寄ったペットショップでのことを指すんだ。
「ええと」
おつかいって誤魔化せていなかったか。ほい、とエスが赤い物を投げてきたからキャッチすると、まさにペットショップで見た首輪と同タイプ。しっとりとしたなめし加工済の革は、吸い付くような感触でオレですらうっとりとしてしまう。
「首回り大体50cm弱でアジャスト可能。盗聴器と発信機は仕込み済。他に欲しい機能ある?」 これは相手が獄寺と判っているのかほんとの大型犬と思われているのか判断が難しい。盗聴器と発信器は確かに迷子になった時に役立つけど、獄寺だったらどう使うの?だいたい、おつかいだったらオレが決めることじゃないし。
「グラッツェ。とりあえず、これはここまででいいよ」 「いいよ。こないだのお返しだから」
親日家のエスの為にオヤジに簡単な寿司セットを送ってもらった。寿司太郎もいくつか。いたく感動して、すぐに自分でも巻き寿司を作ったそうだ。
そこに獄寺から電話が入った。
『悪い、メールする暇がなくて。今夜遅くなるから飯の準備はいらねぇ』
「了解。気をつけて」
電話を切るとエスがオレを見ていた。久しぶりに真っ正面から見たけど、線が細くて技術家というより数字を弄っているようにも見える。興奮でタレ目が輝いているのは気のせいなんかじゃない。
「リョウカイってどう書く?」
やっぱりな。使い古された小さな黒板が差し出された。"了"が難しいんだよな。簡単すぎて。なんとか"了解"と大きめに書くとじっと眺めていたエスが大発見をしたように目を見開いた。
「了平の、了、だ」
ああ、ホントだ。言われるまで当たり前過ぎて全然気付かなかった。
「やっぱりクールだな」
さて、呼び出し食らわないうちに帰るとするか。腰を上げたオレに目をくれないのはいつものことだからじゃあな、と声をかけてラボを出る。と。
「エス、なんか袋無い?さすがにこのままだとなんか」
「犬のなら全然問題ないだろ」
そう言いながらも適当な袋が投げられた。
あちゃー、やっぱりバレているのな。
獄寺の首に巻くのを考えただけで興奮しているのに、こんなものむき出しで持ち歩くのって裸で歩くのと一緒だっての。


エス:本名はなんだかんで長いから簡単にエスと呼ばれている。同じ危機管理部で彼は主に裏方で必要な装置やら武器やらを作る担当。腕がいいのとマニアックのバランスがよくて大概のものを作り上げてくる。気さくなヤツで俺のジャストアイデアの機械も実現化してくれる。by山本。


続く。
20080712 だい






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