好奇心



妙に静かだった。
音が吸い取られているような。
入れっぱなしのヒーターが低い音で動いている以外は何も音がしない。乾燥し過ぎで、喉が渇いて目を覚ました俺は冷蔵庫のあるバーカウンターに向かい、ふとカーテンを少し開けた。
外は一面の銀世界だった。
今はもうゆっくりと降っているが、昨夜相当降ったのだろう。道も屋根もポストもなにもかも真っ白だった。
カターニャは温かい場所なのでこんなに積もるほど降ることはないと聞いている。
「獄寺!」
思わず声をかけたけど起きるはずもなく。
深く寝ることはあまりないから、それを邪魔しちゃいけないって慌てて口を塞いだ。そっと覗くと、少し怒っているように眉根を寄せてむずかるように毛布に潜り直した。むずかる子供みたいでちょっとほんわかする。起こさなくてよかった。安心して風呂の準備をする間、ベッドに腰を下ろして獄寺の頭を撫でた。
安心しきった寝顔を見ていると心が満たされる反面、どこか落ち着かなくなる。居心地が悪くなる。愛している人が俺を愛してくれていて。きっと、このままずっと俺達は同じ方向を見て、そう死ぬまで。――ロクな死に方なんてしないだろうけれど。
さらさらなのに段々オレの指にまとわりついてくる獄寺の細い髪を解くように撫で続ける。多分、俺だけが知っているこんな獄寺。このままずっとこうやっていたいという気持ちすらある。
でも、ずっと一緒にいることってできるのかな? 不安という黒い染みはあっという間に俺の心を真っ黒に染め上げる。 現状に不満はない。 個人的には色々あるけれど、少なくとも獄寺とのこの関係に不満なんて無い。獄寺は獄寺らしく過ごすことがどれだけ俺の幸せに繋がっているか、自分をみてくれないと駄々をこねた学生時代は遠くに置いてきた。こっちに来てすぐに獄寺は敵とぶつかって血まみれになった。失神して運ばれる獄寺に俺は言葉を失った。初っ端がそれだったから、命がある、ということがどれだけ幸福なことか知っている。
なのに、この焦燥感はなんだろう?
どうして更に獄寺を求めてしまうんだろう。
もっと俺を、同じように求めてくれればいいのに。
わかっている。今のままでも充分獄寺は応えてくれている。
だけど、もっと俺を。俺だけをみつめて、さわって、もとめてほしい。
嫉妬より強い衝動がつきあがることに呼吸を忘れる。
雪で白く染まった世界を獄寺と見たかった。
自分の黒く染まった心をもてあました。
どれだけひとの命をその手にかけたとしても、まっすぐに迷い無く進む獄寺にはこんな気持ちを見せちゃいけない。
獄寺は俺をこんな風には見ていない。
違う俺を見て態度を変える奴とは思わないけれど。
でも、もし――。
俺は頭を振って浮かんだ考えを無理矢理消した。傍らの獄寺が寒くないように、毛布やシーツを引っ張り上げてぐいぐいと肩口に差し込んだ。なんでこんなに焦っているんだろう、と自分でもおかしくなるぐらいだった。

それを焦燥感と呼ぶということを後で知った。
ただこの時は獄寺を大切にしなきゃいけないって思い込みだけで頭がいっぱいだった。






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