愛玩動物 Ver.14 犬を飼い始めた。 結構大型で、身体はオレよりも大きい。しかし、オレの部屋ではおとなしくて、全く声を出すことはない。何をするでもなく部屋で時間を過ごして、自分の都合で帰って行く。 その犬の名前は山本武という。 そもそも何故山本がオレの家に上がり込むようになったかということだが、オレは今でもその時のことを後悔している。ある日いつものように十代目をお送りした後、二人きりで帰っている時だった。いつもなら二人とも特に会話することなく歩くだけなのに、その日に限って山本が口を開いた。 「オレさー、今度獄寺んち行ってみたいな」 「はあ!?なんでてめーを家に上げなきゃいけねーんだよ。却下だ、却下」 この話は終わりとばかりに、懐から煙草を出して銜える。しかし、山本は全然引き下がらなかった。 「いいじゃなーかよ。獄寺一人暮らしなんだろ?」 「ウルセー」 オレの前に回り込んでニコニコと笑っている。いつものことながら、その笑顔はオレをイライラさせた。煙草に火を点けると、空に向かって煙を吐き出す。 「なんだよ。ひょっとして一人じゃないとか?ああ、姉貴いるもんな」 「何で姉貴が出てくるんだよ!お前オレを殺す気か!?」 一瞬山本の目が鋭くなったような気がしたが、その違和感はすぐに消えた。 「じゃあいいじゃねーかよ」 「しつけーんだよ」 実を言うと、オレは家を出てから誰かと一緒にいるということが苦手になっていた。大勢の人間がいるとまだ平気なのだが、誰かと二人きりというのは耐えられそうにない。まして自宅に誰かを入れるなんて、考えたこともなかった。 「なーごくでらー」 「駄目だったら駄目だっつの」 「いいじゃねーかよ」 しかし、この日の山本は何故か全然諦めようとしなかった。誰に対しても物わかりのいい態度を取る癖に、オレに対してはにこにこと笑いながら全く折れようとしない。 あまりのしつこさに、先にキレたのはオレの方だった。 「ウッルセーなっ!!わかったから、家に入れてやるよ!」 「え?マジ?」 「ただし!!」 オレは、手にした煙草を山本に突きつけながら睨み付けた。 「オレん家では絶対に喋るな。オレは煩いのは嫌いだ」 この時オレは、その条件で山本が諦めると思っていた。実際、家に行きたいと言っている奴に「喋るな」なんてあまりにも理不尽だろう。 ところが、山本は一瞬表情を無くした後、笑みを浮かべやがった。 「いいぜ。黙っていたらお前ん家に行ってもいいんだろ?黙っているよ」 「はぁ?」 オレは自分が言い出したことだというのに、思わず聞き返していた。 |