aqua-vitae (命の水)



薬品で焼け爛れた肌の再生と成長しきらなかった器官の保護のために、赤ん坊は小さなガラスケースに入れられて数日を過ごした。時折、唯一の栄養源である点滴を取り替えられる以外は、薄闇の中で睡眠をとりつづけていた。時折、体につながっている大きなおしゃぶりがぼんやり光ることがあったが、まだその目には何も写らなかった。

赤ん坊は自分がアルコという呼ばれていることを知った。それが名前だと思った。
体のあちこちには醜いひきつれが残ったが自律呼吸もできるようになり、立ち上がる体力もついた。視力も追いついてきた。
「よぉやっと出てきたな」
おしゃぶりが光り始めたのをみつめていたら、黄色いおしゃぶりをした黒ずくめの赤ん坊がいた。
「おまえ名前なんてーんだ?」
「アルコ?」
「それは名前じゃなくて、オレたちのことだ」
「オレたち?」
「誰も何にも教えてねーのか?」
うんうん。と寝ていた赤ん坊が体を起こした。
「そっか。じゃちょっと待ってな」
黒ずくめの赤ん坊はにっと笑って、ベッドから飛び降りて部屋を出て行った。光っていたおしゃぶりが暗い色に戻っているのを見ていたらまた光り始めた。入り口には大人の男と肩には黄色と青のおしゃぶりをそれぞれ持った赤ん坊が乗っていた。
「ごめんなー、ちょっと仕事が終わんなくてさ。さみしがってねーか?」
「誰?」
「おまえの親代わりだよ。おまえの名前はラル・ミルチだ」
赤ん坊はおしゃぶりに小さな手をのせて何度か繰り返した。ラル・ミルチ。ラル・ミルチ。
「コイツ、頭大丈夫なのか?コラ」
青いおしゃぶりの赤ん坊が男の肩から飛び降りてラル・ミルチと名前がついたばかりの赤ん坊の顔を覗き込む。暗い部屋に現れた金髪が眩しくてラル・ミルチは目をふさぐ。
「逃げんじゃねーぞ、コラ」
「コロネロ。落ち着けって」
コロネロ?知ってる。ラル・ミルチは唯一知っている単語と青いおしゃぶりの赤ん坊が繋がってつい口にした。
「コロネロノバカ?」
笑い声が二つと頭をはたかれるのが同時に起きる。
「ふざけんな!コラ!!」
「さいこーだな、ラル」
ラル・ミルチは太い暖かい腕に抱かれて、二人の赤ん坊と対面する。容赦なく頭をはたかれてじんじんする。
青いおしゃぶりの赤ん坊は金髪で、コロネロノバカで、口が悪くて手が早い。
黄色いおしゃぶりの赤ん坊は、黒ずくめでケラケラ笑ってラル・ミルチを褒めた。
「ラル。こっちがリボーンで、こっちがコロネロ。でも、コロネロのばかって呼んでもいいぞ」
「殺すぞ、コラ!」
金髪と蒼い目が眩しくてラルは思わず手を伸ばした。金髪をそっと触る。
「キレイだ。…悪かった。前に、誰かがコロネロノバカって呼んでいたから、そう思っていたんだ」
「しゃべれんじゃねーか」
男はラルを腕に、両肩にリボーンとコロネロを乗せて部屋を移動した。
リボーンとコロネロはソファに飛び降りて自分たちのお茶を飲み始めた。ラルは男の膝に降ろされて見上げる。
「お前の名前はなんだ?」
「言ってなかったか?家光だ。よろしくな」
コロネロと同じ金色の髪と髭をもった男だったが、コロネロやリボーンとはどこか違う感じをラルは受けた。






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