aqua-vitae (命の水)



ラル・ミルチは改めて自分の出生の秘密を知った。
ラル・ミルチは作られた存在だった。コロネロやリボーンたちアルコ・バレーノを作り出すための新たな実験の産物。遠い昔の呪法を科学的に掘り起こし、呪われた赤ん坊を新たに生み出すプロジェクトが進んでいた。人道的な問題を持ち出して反対する者もなく進められていたが、なかなか成功しなかった。
古い文献全ての方法が検証され、リボーンとコロネロ二人の細胞を採取され分析されたが、成功に結びつかず研究者たちが焦る中、偶然が偶然を呼び生まれたのがラル・ミルチだった。
しかし、人間でいうところの未熟児だったために、即戦力として役立つアルコ・バレーノとしては認められなかった。
ラル・ミルチが一度命の火を消した時、コロネロが失敗を装って研究所内でダイナマイトを爆発させたが、研究所はコロネロが考える以上に強固なつくりで、崩壊させることが適わなかった上に、ラル・ミルチには薬品による火傷の跡を残す結果になった。皮肉にも什器が倒れ、薬品がこぼれたその衝撃がラル・ミルチの心臓を蘇生させることになったが。
研究に反対する者として、コロネロや意見を同じくさせていたリボーンや家光たちもファミリー内でマークされ次の一手がうてないでいた。そこでジョーカーになるのがラル・ミルチだった。公式には蘇生されたことなく死んだままになっている。
そこで、家光たちが一度本部に戻っても、研究所を破壊できる、というわけだ。
「なんでアイツがお前を助けたのか解せねーんだよな」
「俺が死にかけても笑って見てた奴だぜ」
「だから信用できんだけどな。でも、俺はおまえが生まれてきてくれて嬉しかったぜ」
家光は再びラル・ミルチを腕に抱きわざと髭をこすりつける。小さい手のひらでそれを押しのけて不快感を表すラル・ミルチに構わず家光はもう一度押しつけた。
生まれてくることを望まれていない赤ん坊、失敗作ということを聞いてもラル・ミルチは動揺することはなかった。正確には理解できなかった。今、自分はここで生きている。それ以外何を望む?
しかし、家光は嬉しい、という。
「どうしてだ?」
「子供ってのは何人いてもいいもんだ」
「まさか俺はカウントしてねーだろうな」
「俺とリボーンを一緒にすんじゃねーぞ、コラ」
小さな大人たちの威嚇にも、家光は笑うばかりで明確な返事はしなかったが、明らかに相好を崩した表情には肯定の意がこめられていた。
「お前の息子と一緒にすんじゃねーぞ」
「逢いてーなー。俺の奈々と綱吉!」
「若い奥さんもらってんのに、単身赴任とは大変だなぁ」
「嫌味か?」
「カワイイ奥さんもらってうらやましいなぁって妬みだな」
「だろー。綱吉も奈々似で目がおっきくてかわいくってなぁ」
「けっ、つまんね」
ラル・ミルチは一連の会話に参加できずただ眺めていた。
生まれてきてくれて嬉しい、とか。
子供は何人いてもいい、とか。
一緒にすんじゃねーと怒鳴りながらも、嬉しそうなコロネロとリボーン、とか。
−−そうか、自分には感情というものがないのかもしれない。失敗作だもんな。
ラル・ミルチは天の啓示のようにそんな考えが思いついて、納得した。
そろそろ子供は寝る時間だ、と寝室に運ばれて眠りにつく。ラル・ミルチは夢の存在も知らなかった。






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