aqua-vitae (命の水)



それから一週間。
ひたすら重火器の特訓に費やされた。コロネロだけでなくリボーンからも拳銃の手ほどきを受ける。顔をつき合わせば喧嘩ばかりの二人もさすがにラル・ミルチに教えるときは真面目にやる、わけもなく、相変わらずどつきあいながら、時には殴り合いながら特訓は進んでいった。
本当に仲が悪いわけでもソリが合わないわけでもなく、お互いに実力が互角だからこそガチで付き合えるんだな、とラル・ミルチが納得したのはラル・ミルチが研究所を襲撃している最中だった。

作戦前日に暮らしていた家を出た。出た直後に爆発させ住んでいた痕跡を全て破壊し、三人とは別れて研究所の敷地内に忍び込んだ。建物の設計図で中は暗記している。コロネロとリボーンに爆薬の知識、銃器の扱いを叩き込まれ驚くべき速度で習得した。
研究所内の要所に遠隔操作爆弾をセットし、特に研究文献が集められている場所には大量の瞬間発火爆弾を仕込んだ。それらの文献は一瞬でも早くこの世から抹消しなければならない、とリボーンに聞いている。
庭の木の上に陣取り、設計図としかけた爆弾の場所を確認する。抜けがないことを確認してスイッチを押す。
火山が爆発するような轟音が響き渡り、一瞬にして建物は火に包まれた。甲高いサイレンとスプリン・クラーが動き出すがとてもおいつかない。ラル・ミルチはスコープを通して見る景色を感慨深く思うことなく眺めていた。右手に構えたマシンガンが無意識に動く。銃口が火を吹いた先には、傭兵が倒れていた。隣の木の枝に移りながら連射を続ける。先方に自分の姿が入らないように常に移動する。宙を飛ぶ手榴弾も的確に撃ち落していく。木から降り、地面に背中をつけて上空へと連射を続けると背後に迫った傭兵たちがバタバタと倒れた。弾が尽きたマシンガンを火の中に放り投げ、茂みに転がり込み、ライフルを構えた。暗視スコープ越し、緑の世界の中で右往左往する傭兵たちを次々と狙い撃つ。
初めての実践なのに、頭は冴え渡り次にするべきことが頭に浮かぶ。これも二人にシチュエーション別の闘い方をたたきこまれたからだろう。
あまりの手ごたえのなさに二人の喧嘩さえ脳裏に再現される。
「貴様!」
不意に背後からナイフが振り落とされた。木々の隙間で横に転がり、背後をとった男へと焦点を結び引き金を引くが、銃身を弾かれ横に飛ばされた。引き金にかけていた右手の人差し指が折れ熱い痛みが脳天をつくが、構わずに傭兵の懐にとびこんでナイフを突き刺した。再度、建物から激しい爆発音が起こった。
背中を激しい熱風に押されてコロコロと吹っ飛ばされた。頭を強打して立ち上がれない。地面に押し付けた左のこめかみではズクンズクンとイカれた指の痛みが大きな音をたてた。飛ばされた割にはあまり建物から離れておらず、熱風が押し寄せて髪の毛が焦げる匂いがし始めた。 もう動けない。このまま死ぬんだな、とラル・ミルチはぼんやりと思った。短い人生だった、と後悔することもなく、ただ終わるんだと思った。
「さすがアルコ・バレーノと言いたいとこだが、無茶させられたな」
聞き覚えのある声が頭上から降ってきた。ふわ、と体が持ち上げられて熱風から遮断される。
「ご苦労さん、とりあえず15年後予約しといてくれ」
誰かの腕の中におさまる。折れた指に男が触れる。
「歯食いしばれ」
激痛を伴って指が戻される。
「休めラル・ミルチ。コロネロのばかんとこ連れてってやるからな」
コロネロのばか。激痛の中、初めてラル・ミルチは笑った。






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