漆黒 ラル・ミルチに連れられてツナと一緒に自分達のアジトに向かう途中、不意打ちの攻撃を受け獄寺は二人とはぐれてしまった。攻撃のやり方からいって、相手は初めからそれを狙っていたのだろう。 空気が動いたのを感じると同時に、細い光の帯が長く伸びるのが見える。それに触れると、大木すら真っ二つだ。 ――鎌鼬か!? 「隠れてねーで、出てきやがれ!」 リング争奪戦で戦ったベルフェゴールも似たような技を使ったが、結局はトリックだった。 「お前のトリックも見破ってやるぜ!」 獄寺はそう叫ぶと、相手のいる大木の陰にダイナマイトを飛ばした。 「お前の居場所なんて、空気を切る音でわかるっーの」 もうもうとした煙の向こうに、何者かが動く気配がした。自分よりかなり背の高い影を睨み付け、獄寺は新たにダイナマイトを構える。 「相変わらず容赦ねーな、獄寺」 不意に耳に聞き慣れた声が響く。 「なっ…んだって?」 「こんなところで10年前のお前に会えるとは思わなかったな」 白い煙が薄れ、黒いスーツ姿の男が現れる。 浅黒く日焼けした肌、黒く短い髪、大人びたとは言え浮かべている笑顔は、間違えようもない。 「や…ま、もと?」 「久しぶりだな、獄寺」 抜き身の日本刀を下げ、ゆっくりと近付いてくる。あまりの衝撃に、獄寺は手にしていたダイナマイトを取り落としてしまった。 「なに、言って…」 「ああ、10年前は毎日会っていたよな。今では全然会えなくなったのな」 山本は日本刀持つ右手を持ち上げ、手の甲に滲んだ血を舐めた。 「敵同士、会うと殺し合いになるから」 「何でだよ!」 信じられないものを見るように、獄寺は目を瞠っている。固く握り締めた両拳は、震えていた。 「まさか、お前!?」 「10代目を裏切ったのか、か?」 山本は目を細めて笑った。その笑顔は記憶しているものと違いはない。 「……俺も、か?」 搾り出すような獄寺の問いかけに、山本は僅かに眉根を寄せた。 「…結果的には、そうなったのかもな」 山本の言葉に衝撃を受けていた獄寺は、やがてその表情に怒りをあらわにしていった。 「てっ…め、絶対に許さねぇ!!」 新たにダイナマイトを取り出し、間髪を入れずに火を点ける。 「お前だけは、俺が始末してやる!!」 日本刀を下段に構えていた山本は、楽しそうに笑った。 「10年後でも敵わないのに、10年前のお前に何が出来るんだ?」 「うるせぇ!」 時間差で次々とロケットボムを放つ。 獄寺は、これで運動神経と勘は野生動物並の山本を倒せるとは思っていなかった。しかしいくら山本でもこれを避けるのが精一杯のはずだ。これをおとりにして山本の右側に回りこむ。そして山本の頭目掛けてロケットボムを放った。 ――シュッ 山本は小さく息を鋭く吐くと、少しだけ日本刀を閃かせた。 その瞬間、山本の周りに細い光の帯が乱舞した。ロケットボムは一つ残らず粉々になる。信じられない事に、山本の手にした日本刀はずっと下段に構えられたままだ。 それを見た獄寺の動きが一瞬止まった。 「獄寺」 山本の日本刀が振り上げられた。 思わず顔の前で両手を組んだ獄寺は、次の瞬間、爆風に吹き飛ばされた。10メートル以上離れた大木に身体を打ち付けられる。体中に細かい切り傷を負い、打ち身で全身が痛い。それでも、右手を視点にしてなんとか頭を上げる。 獄寺の霞む視界に、ゆっくりと歩いてくる山本が見えた。 「何故吹き飛ばされたのか、わからねーだろ。…自分の‘力’に気付いていないお前が、勝てるはずもない」 「…やっ…ま、もと…」 噛み締めた歯の隙間から小さく声を出すと、獄寺の身体は崩れ落ちた。 血だらけで気を失った獄寺をしばらく眺めていたが、遠くにいた気配が遠ざかると、山本はゆっくりと膝を折った。 前髪をかきあげて、血の滲んだ唇の端を撫でる。 「悪かったな。痛かっただろ」 指についた血を眺めて、山本は眉根を寄せた。 「こうでもしないと、お前を真っ二つにしてしまうところだったからな…それに、あいつらもいたしな」 自分の腕に馴染んだ身体より、随分と小さく細く見える。背中と膝裏に手を入れて、ゆっくりと抱き上げた。 「後で本当の事を話してやるから」 ――信じてくれる、か? 獄寺の閉じた目の淵が、うっすらと濡れていた。 「……隼人」 山本は、その白い額に祈るように唇を寄せた。 もし、登場した10年後山本が敵だったら、という妄想話でした。 登場した山本はガッツリ味方だったんですけどね(爆。 この妄想話の中での山本の技は、某五星物語よりパクリました。剣を振るう風圧だけで相手を切るというヤツです。/つねみ |