magia (magic)



「いらない」
「おいってば!」
 ディーノは慌てて点々と転がるボンゴレリングを拾い、その間に距離を詰める雲雀におののいた。
「っと!」
 片手を床について避けて、反対に雲雀を炎の鞭で縛り上げる。
「落ち着けって」
 自由な足で蹴り上げてくる雲雀の膝を背後から払って、膝をつけさせる。肩に左手をおいて抑え付けて、鞭を解いて雲雀の目を覗き込む。甘さの残る笑みが消え、自分を射るほどの視線の強さに雲雀はひとまず話を聞こうとぐい、と顎を上げる。
「もっとおまえが強くなる方法だ」
 ディーノは自分を睨む雲雀の目前で、もう一度リングへ炎を点す。ボとリングを覆うように炎が上がり、やがて手全体を覆うほど広がるが、不思議と熱さは感じなかった。
「魔法?」
「だったらいいんだけどな。ある程度覚悟のある人間なら誰でもできる」
 雲雀の肩においた手を滑らせて、手を持ちリングを嵌めようとする。
「薬指がぴったりだったらどうなんだろう」
 ひとりごちた後、中指へと通し、ぐっと指の根本へと押し込む。
「覚悟だ恭弥。そのリングに炎を点すのが今度の修行だ。これからの闘いに重要になるから」
 雲雀はボンゴレリングを見つめながら力を集中するが何も起こらなかった。
「正確な説明はリボーンとかがいいんだけどな。ええと、恭弥。おまえ、オレを倒したいだろ。その気持ちをこれに集中してみて」
 瞬間、パチパチと灯りがまたたき、次にとんでもない量の光が二人の間から迸った。ディーノが一瞬怯むほどの炎の量だった。
「な…すげぇ。さすが」
「トンファーにこれ(炎)は点せないの?」
 ブンブンと炎を点しながらトンファーを振り回して雲雀は聞いた。
「それが次の特訓だ」
「ふぅん」
 雲雀はあふ、と欠伸をした。緊張感の欠片もないその仕草にディーノは目を剥いた。まさか。
「眠いからまたね」
「そんな悠長な場合じゃねぇって!!」
「赤ん坊達の失踪と関係があるの?」
「大ありだって」
「じゃ、起きたら説明して」
 そういえば、昼寝をあいつに邪魔されていた、と雲雀は思い当たり、応接室へと向かう足を止める。転がる予定のソファは先ほど壊した事をも思い出したのだ。くる、と振り返る雲雀にディーノは考え直したか、と鞭を持ち直すが雲雀は、次の寝床候補の屋上の給水塔へと向かうだけだった。
「きょうやー、そんなとこで寝ると風邪引くぞー」
「邪魔するなら、咬み殺すよ」
 雲雀のヒバードがぱたぱたと雲雀の元へと降り立ったのが下からでも見えた。こうなったらディーノでもどうしようもない。雲雀が起きたらすぐに始められるように、給水塔への梯子の下に腰を下ろした。
「グラッツェ」
 ロマーリオに暖かいコーヒーカップを渡されてディーノは両手で抱え直した。
「持久戦だな」
「あぁ、ボンゴレから連絡が入った時は信じられなかったがな」
 ディーノはリングに炎を点す。ボウと光る澄んだ炎はディーノの心持ちを表しているようだった。
「恭弥の、見たか?」
「あんたより凄かったな」
「な。これを魔法って言うんだぜ?」
「魔法だったら良かったのにな」
 ロマーリオはディーノの横に胡座をかいて炎をみつめた。自分達を守ると決めたときにディーノに左腕のタトゥが継承された。そして次は覚悟を顕すリングの炎。次々と現れるハードルをクリアしてくボスをロマーリオは誇らしく思った。しかし、たかが中学生であるボンゴレの守護者達が受けるには些か酷な事じゃないかと雲雀が眠る給水塔を見上げた。
「大丈夫だよ、ツナが選んだ守護者だ。どんなことがあっても、乗り越えられると思っているよ」
「あんたが信じないと、な」
 ボンゴレサイドから連絡のあったリングの元々の機能と不可解な匣の説明。続いて起こったボンゴレ10代目ファミリーの失踪事件。
 ディーノは十年後の自分がロマーリオに託した紙を広げる。リングと匣兵器についての簡単な走り書き。匣が手元にない今どこまで正しいのかわからないけれども、少なくともリングに炎を点せたことからこの走り書きが間違っているとは思えなかった。
「かわいい子には旅をさせろと言うけど、でも10年後はきついよな」
「そして、ボスは10年後も恭弥が気に入ってるらしいな」
「ホントだよな!一体何をしやがったんだろうな!…って!!」
 声を上げるディーノに空からトンファーが落ちてきた。寸分ずれずに脳天を直撃され、床にはいつくばった。
「煩いよ」
「だってさ」
 ロマーリオの笑みにディーノも涙を浮かべながら笑った。






THE Magic