レクイエム



 10年後(正確には9年10ヶ月後だが)の世界に飛ばされてから、2ヶ月が過ぎた。
 今日は、あの日から丁度10年後の日。
 昨日、「先に戻っとくぞ」と言い残して、リボーンが消えた。
 次は…多分、オレの番だ。


「そろそろ、かな?」
「大丈夫ですよ、10代目。あっちではリボーンさんが待っててくれてますし、オレもすぐ追いつきますから」
 こっちに飛ばされてから心細かったオレをずっと支えてくれた獄寺君は、自分も不安でいっぱいなんだろうけど、いつも精一杯オレを励ましてくれた。
 ほんの数分しか一緒にいられなかった24歳の獄寺君も、きっと変わらずに10年後のオレの傍にいてくれてるんだろうな…出来ればもう一度逢って、オレからもちゃんとお礼を言いたかった。
「あ、そっか。獄寺君が10年前に戻る前に、向こうでこっちの獄寺君にまた逢えるかな?」
「そう、ですね…ジャンニーニの計算によれば。きっとオレの事ですから、あっちでも10代目の傍にいますよ」
 だから安心して下さい、とにっこり笑う獄寺君は、心なしかこの2ヶ月でまた成長したような気がして…24歳の獄寺君はずっと謝ってばかりだったけど、本当はこんな風に笑うのかな、なんて思ったりしていた。


 メカニックのジャンニーニが説明するには、10年前の世界で10年バズーカを撃たれたオレ達は、どうやらノン・トゥリニセッテ線の影響で9年10ヵ月後に落とされてしまったらしいが、入れ替わった9年10ヵ月後のオレ達はちゃんと10年前に飛ばされているらしい…つまり、バズーカで撃たれる2ヶ月前に、だ。
 それから丁度2ヶ月後。ノン・トゥリニセッテ線が消えた世界で正常に働きだしたバズーカの力で、オレ達は飛ばされた時間の5分後の世界にちゃんと戻されて、そこにいる筈の9年10ヵ月後のオレ達と入れ替わる、らしい。
 そうなると、リング争奪戦を繰り広げていた頃の2ヶ月間、オレ達と別に9年10ヵ月後のオレ達もあの世界にいた、って事になるようなんだけど…何か変な話だ。

 ジャンニーニの予測通り、昨日リボーンが消えて、代わりに10年後のリボーンが現れた。そこにいる全員が安堵する中、1人ひょうひょうとした様子でジャケットの埃を叩いてボルサリーノのつばを引き上げると、にやりと口元を歪めた。
「ちゃおっす。ツナ、久し振りだな」


「ツナ、元気でな。10年後に逢おうぜ」
「うん、山本も…本当に有難う」
 すっかり見慣れてしまった24歳の山本を見上げると、どうしても山本のお父さんの事を思い出してしまい、胸が痛んだ。
 それでも…今ここで言わなきゃいけない事があった。
「山本、あのさ…」
「ツナ…お前の好きなようにしろよ」
 言いかけた言葉を遮った山本の声もその表情も静かで…意味もなくオレは首を振っていた。
「10年前にお前達が戻って、多分色々な事が起こって…今のオレが知る事や、もしかしたら知らない事も起こるかもしれない。それでも、オレはいつでもお前を信じているからな」


 10年前に戻ったオレ達に、もしも同じような10年後が訪れても…リングさえあれば、山本のお父さんを死なせずにすむのかもしれない。
 でも、もしかしたら、リングの所為でもっと酷い未来になるのかもしれない。
 リングを壊したという10年後のオレは、何を思ってリングを手放してしまったんだろう…その時、がやってきたら、オレはどうしたら良いんだろう。


 俯いてしまったオレの頭に山本の大きな手が載せられて、髪の毛をくしゃくしゃにかき乱した。
「大丈夫だって。お前にはオレも獄寺も小僧も…みんながついているから」
「そうですよっ、10代目!」
 二人の声に背中を押されて顔を上げると、目の前が真っ白い煙に包まれた。
「山本っ、有難う!獄寺君、待ってるから!」
 最後に叫んだ声が2人に届いたかは判らなかった。






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